商標 判決集(8)


「LEONARD KAMHOUT」商標拒絶審決取消請求事件(商標法第4条第1項第8号に該当)最判
「INTELLASSET商標登録無効事件商標法第4条第1項第8号に該当
「月の友の会」商標事件商標法第4条第1項第8号に該当しない最判
「SEIKO EYE」 vs 「eYe miyuki」商標事件(商標法第4条第1項第11号不適用最判
「PALM SPRINGS POLO CLUB」商標拒絶審決取消請求事件(商標法第4条第1項第15号適用)最判
「ジーンズのバックポケット」商標登録無効審決取消請求事件(商標法第4条第1項第15号適用)
「巨峰」商標の使用差止仮処分申請事件
「巨峰」商標権侵害差止請求事件
「シャディ」商標拒絶審決取消請求事件
「DALE CARNEGIE」商標 不使用取消事件
「BOSS」商標 損害賠償請求事件
「CONMER」商標登録無効事件(商標法第4条第1項第7号不適用、但し19号等に該当)
「赤毛のアン(Anne of Green Gables)」事件
「極真空手 KYOKUSHIN KARATE」商標登録無効事件(商標法第4条第1項第7号に該当)
チョコレート菓子(商品名「シーシェルバー」)事件(立体商標)
「人と地球」商標権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件
審決取消請求事件(商標法第51条1項の不正使用取消)最判
審決取消請求事件(商標法第53条1項の不正使用取消)
結合商標における商標の類否(「LYRATRATAKARAZUKA」商標事件)…最判
「BALMAIN」商標拒絶審決取消事件
「ワイキキ」商標事件(商標法第3条第1項第3号に該当)最判
「AfternoonTea」商標事件(商標法第4条第1項第16号に該当しない)
「AfternoonTea」商標事件(商標法第51条第1項の不正使用取消)
「ハイミー」商標事件(真正商品の再包装最判
「マイクロクロス」商標事件(商標法3条1項3号又は6号、同法4条1項16号の無効理由無し)
地模様の自他商品識別力
「ガンバレ!受験生」商標事件(商標法第8条第2項、同第5項の解釈)
「AJ」商標事件




「LEONARD KAMHOUT」商標拒絶審決取消請求事件(商標法第4条第1項第8号該当)

事件番号  平成15年(行ヒ)第265号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成16年06月08日
裁判所名  最高裁判所第三小法廷  
判決データ:  TM-H15-Ghi-265.pdf

 本願商標は、アメリカ合衆国の彫金師であり、銀製アクセサリーのデザイナーであるレナード・カムホート(以下「カムホート」という。)の氏名から成る商標である。
 本件出願時には、カムホートの承諾を示す書面の提出はなかったが、上告人は、平成11年1月26日、補正の内容を「同意書及びその訳文を別添のとおり提出する」とする手続補正書を特許庁に提出した。これに添付された平成10年12月1日付けのカムホート作成の同意書には、上告人が本件出願に基づき商標登録を受けることに同意する旨の記載がある。
 カムホートは、平成12年5月25日、提出刊行物を「同意書の撤回通知書の写し及びその訳文」とする刊行物等提出書を特許庁に提出した。この書面には、カムホートは上告人に対し同月24日付けの撤回通知書を送付して上記同意書による同意を撤回した旨の記載があり、同撤回通知書の写しが添付されている。

(中略)

 したがって、出願時に8号本文に該当する商標について商標登録を受けるためには、査定時において8号括弧書の承諾があることを要するのであり、出願時に上記承諾があったとしても、査定時にこれを欠くときは、商標登録を受けることができないと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本願商標は出願時に8号本文に該当するものであり、査定時において上告人が本願商標につき商標登録を受けることについてカムホートの承諾がなかったことは明らかであるから、本件出願は、本願商標が8号に該当することを理由として、拒絶されるべきものである。





「INTELLASSET」商標登録無効事件商標法第4条第1項第8号該当

事件番号  平成19年(行ケ)第10113号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成19年12月20日
裁判所名  知的財産高等裁判所 
判決データ:  TM-H19-Gke-10113.pdf

(5) 「INTELL」が既製語にはなく、それ自体から特定の観念は生じないものの、上記(4)のとおり、「INTEL」は、原告の略称として広く認識されており、本件商標の文字部分「INTELLASSET」の冒頭には、原告の著名な略称である「INTEL」が包含されることは一見して明らかであるし、また、「I」と「A」の文字は他の文字よりも約1.25倍大きく(高く)書かれ、「INTELL」と「ASSET」とを分けて認識させることから、「インテルアセット」の称呼も生じ得ることは、前記(2)に説示したとおりである。
 確かに、「INTELL」と「ASSET」との間に空白(スペース)はなく、「INTELLASSET」全体を1語として認識することができ、「INTELL」は上記著名な略称と完全には一致せず、本件商標には、文字部分のほかに、朱色の水平線及び「GROUP」の文字も配置されている。しかし、「INTELL」と「INTEL」の相違は、最後の「L」1文字にすぎず、微差であり、いずれも「インテル」の称呼を生ずる綴りである。また、「GROUP」の部分は、企業又は人の集まりとの観念を生じるにすぎないし、朱色の水平線も本件商標の文字部分に比して目立つものではないから、出所識別に何ら寄与しない。
 被告は、本件商標の文字部分「INTELLASSET」において、「INTELL」は、商標に採択されることの多い「intelligent」や「intellectual」の略語であるから、冒頭の「INTEL」にのみ着目すると、これらの語で始まる全ての商標について、原告の独占を認めることになり、このような広範な独占は、商標法の本来予定するところではないと主張する。
 しかし、「INTELL」が「intelligent」や「intellectual」の略語として、広く定着していると認めるに足りる証拠はないから、被告の主張を採用することはできない。
 これらを総合して判断すれば、本件商標に接した需要者は、その文字部分「INTELLASSET」から「資産、財産」の観念を感得するとともに、原告の著名な略称である「INTEL」をも認識し、ひいては原告を想起すると認められる。
 被告が「INTEL」の使用につき、原告の承諾を得たと認めるに足りる証拠はないから、本件商標は、商標法4条1項8号の商標に該当する。したがって、この点に関する審決の判断は誤りである。




  本件商標
  商標登録第4651763号




「月の友の会」商標事件

事件番号  昭和57年(行ツ)第15号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  昭和57年11月12日
法廷名  最高裁判所第二小法廷
判決データ:  TM-S57-Gtsu-15.pdf

 上告代理人馬瀬文夫、同福井秀夫、同山上和則、同佐藤正年、同木村三朗の上告理由第一点について
 株式会社の商号は商標法四条一項八号にいう「他人の名称」に該当し、株式会社の商号から株式会社なる文字を除いた部分は同号にいう「他人の名称の略称」に該当するものと解すべきであって、登録を受けようとする商標が他人たる株式会社の商号から株式会社なる文字を除いた略称を含むものである場合には、その商標は、右略称が他人たる株式会社を表示するものとして「著名」であるときに限り登録を受けることができないものと解するのが相当である。ところで、被上告人が登録を受けた「月の友の会」なる商標は、上告人の商号である「株式会社月の友の会」から株式会社なる文字を除いた部分と同一のものであり、他人の名称の略称からなる商標にほかならないのであって、被上告人がその登録を受けることができないのは、「月の友の会」が上告人を表示するものとして著名であるときに限られるものというべきである。以上と同趣旨の原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の大審院判例は、「他人ノ商号ヲ有スル商標」は登録を受けることができない旨規定するにとどまり、他人の商号の略称を含む商標についてはなんら規定していなかった旧商標法(大正一〇年法律第九九号)のもとにおける判例であって、本件に適切でない。論旨は、採用することができない。
 同第二点について
 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、「月の友の会」が商標法四条一項八号にいう「他人の名称の著名な略称」に該当しないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 同第三点及び第四点について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係のもとにおいて、本件商標は商標法四条一項一五号及び一六号に違反して登録されたものであるとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、いずれも採用することができない。





「SEIKO EYE」 vs 「eYe miyuki」 商標事件

事件番号  平成3年(行ツ)第103号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成5年09月10日
法廷名  最高裁判所第二小法廷
判決データ:  TM-H03-Gtsu-103.pdf    TM-H03-Gtsu-103-1.pdf

 審決引用商標は、眼鏡をもその指定商品としているから、右商標が眼鏡について使用された場合には、審決引用商標の構成中の「EYE」の部分は、眼鏡の品質、用途等を直接表示するものではないとしても、眼鏡と密接に関連する「目」を意味する一般的、普遍的な文字であって、取引者、需要者に特定的、限定的な印象を与える力を有するものではないというべきである。一方、審決引用商標の構成中の「SEIKO」の部分は、わが国における著名な時計等の製造販売業者である株式会社服部セイコーの取扱商品ないし商号の略称を表示するものであることは原審の適法に確定するところである。
 そうすると、「SEIKO」の文字と「EYE」の文字の結合から成る審決引用商標が指定商品である眼鏡に使用された場合には、「SEIKO」の部分が取引者、需要者に対して商品の出所の識別標識として強く支配的な印象を与えるから、それとの対比において、眼鏡と密接に関連しかつ一般的、普遍的な文字である「EYE」の部分のみからは、具体的取引の実情においてこれが出所の識別標識として使用されている等の特段の事情が認められない限り、出所の識別標識としての称呼、観念は生じず、「SEIKOEYE」全体として若しくは「SEIKO」の部分としてのみ称呼、観念が生じるというべきである。
 原審は、株式会社服部セイコーが、同社の販売する時計について統一的に「SEIKO」の表示を用いるとともに、各商品を区別するために、「DOLCE」等のマークを使用していることから、審決引用商標に接する取引者、需要者は、その構成中の「EYE」の部分は、株式会社服部セイコーの取扱いに係る「EYE」印の商品を表示するものと認識すると判断しているが、株式会社服部セイコーが審決引用商標を使用した指定商品に属する商品を実際に販売しているとの事実は原審の認定していないところであり、また、前記認定のとおり取引者、需要者に特定的、限定的な印象を与える力を有しない一般的、普遍的な文字である「EYE」が、そうではないこと明らかでありかつ実際に販売されている時計に使用されている「DOLCE」等の文字と同様に株式会社服部セイコーの販売する商品の出所識別標識となる、ということはできない。
 これを要するに、前記認定の事情に照らせば、審決引用商標の「EYE」の文字部分のみからは、称呼、観念は生じないというべきであるから、右部分に自他商品を識別する機能がないとはいえないとした原審の説示には、商標の類否に関する法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点の違法をいう論旨は理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。



        本願商標                         審決引用商標





「PALM SPRINGS POLO CLUB」商標拒絶審決取消請求事件(商標法第4条第1項第15号適用)

<特許庁における拒絶査定不服審判において、本願商標は商標法第4条第1項第15号に該当し拒絶されるべきであるとの審決がされた。高等裁判所は、その特許庁審決を取り消す判決をしたが、最高裁判所は商標法第4条第1項第15号を適用した特許庁審決を是認し、高等裁判所の判決を破棄した事件。>

事件番号  平成12年(行ヒ)第172号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成13年07月06日
裁判所名  最高裁判所第二小法廷 
判決データ:  TM-H12-Ghi-172.pdf

3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、以下のとおりである。
(1) 本号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに、当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれる。そして、上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきものである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)。
(2) これを本件について見ると、次のとおりである。
ア 本願商標は、その外観上、4個の英単語及びこれに対応する片仮名文字から成るものであって、引用商標と同一の「POLO」、「ポロ」の語と、「PALM」、「パーム」、「SPRINGS」、「スプリングス」及び「CLUB」、「クラブ」の語とを組み合わせた結合商標である。また、本願商標は、全体として一個不可分の既成の概念を示すものとは認められないし、欧文字で19字、片仮名文字で14字から成る外観及び称呼が比較的長い商標であるから、簡易迅速性を重んずる取引の実際においては、その一部分だけによって簡略に表記ないし称呼され得るものであるということができる。
イ 引用商標は、ラルフ・ローレンのデザインに係る被服等の商品を示すものとして、我が国における取引者及び需要者の間に広く認識されているものであって、周知著名性の程度が高い表示である。もっとも、「POLO」、「ポロ」の語は、元来は乗馬した競技者により行われるスポーツ競技の名称であって、しかも、「ポロシャツ」の語は被服の種類を表す普通名詞であるから、引用商標の独創性の程度は、造語による商標に比して、低いといわざるを得ない。しかし、本願商標の指定商品は洋服等であって、引用商標が現に使用されている商品と同一であるか又はこれとの関連性の程度が極めて強いものである。また、このことから、両者の商品の取引者及び需要者が共通することも明らかである。しかも、本願商標の指定商品が日常的に消費される性質の商品であることや、その需要者が特別な専門的知識経験を有しない一般大衆であることからすると、これを購入するに際して払われる注意力はさほど高いものでないと見なければならない。そうすると、本願商標の本号該当性の判断をする上で、引用商標の独創性の程度が低いことを重視するのは相当でないというべきである。
ウ 本願商標を構成する「POLO 「ポロ」の語以外の」、 語句のうち、「PALM SPRINGS」、「パームスプリングス」がアメリカ合衆国にある保養地の名称として知られていること、「CLUB」、「クラブ」が同好の者が集った団体を意味する日常用語であることからすれば、本願商標から「パームスプリングスにあるポロ競技のクラブ」という観念が生じ得ることは、原判決の判示するとおりである。しかし、1個の商標から複数の観念が生ずることはしばしばあり得るところ、引用商標の周知著名性の程度の高さや、本願商標と引用商標とにおける商品の同一性並びに取引者及び需要者の共通性に照らすと、本願商標がその指定商品に使用されたときは、その構成中の「POLO」、「ポロ」の部分がこれに接する取引者及び需要者の注意を特に強く引くであろうことは容易に予想できるのであって、本願商標からは、上記の観念とともに、ラルフ・ローレン若しくはその経営する会社又はこれらと緊密な関係にある営業主の業務に係る商品であるとの観念も生ずるということができる。
(3) 以上のとおり、本願商標は引用商標と同一の部分をその構成の一部に含む結合商標であって、その外観、称呼及び観念上、この同一の部分がその余の部分から分離して認識され得るものであることに加え、引用商標の周知著名性の程度が高く、しかも、本願商標の指定商品と引用商標の使用されている商品とが重複し、両者の取引者及び需要者も共通している。これらの事情を総合的に判断すれば、本願商標は、これに接した取引者及び需要者に対し引用商標を連想させて商品の出所につき誤認を生じさせるものであり、その商標登録を認めた場合には、引用商標の持つ顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその希釈化(いわゆるダイリューション)を招くという結果を生じ兼ねないと考えられる。そうすると、本願商標は、本号にいう「混同を生ずるおそれがある商標」に当たると判断するのが相当であって、引用商標の独創性の程度が造語による商標に比して低いことは、この判断を左右するものでないというべきである。
4 以上によれば、原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、前記説示によれば、本願商標が本号に該当するとした本件審決に違法はなく、その取消しを求める被上告人の本訴請求は理由がないのでこれを棄却すべきである。
 よって、裁判官福田博の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
裁判官福田博の補足意見は、次のとおりである。
 私は、原判決は本件と同様の事案についての当審の裁判例と相いれず、商標法4条1項15号の解釈適用を誤ったものとして破棄を免れないと思料するが、念のため、次のことを補足しておきたい。
 スポーツ競技の1つであるポロ競技は、主として英国及び旧英領の諸地域等において、今なお行われているものである。また、衣料品の種類を示すポロシャツの語は、本来ポロ競技の選手が着用したことにちなみ、米国の作家スコット・フィッツジェラルドのベストセラー小説「This Side of Paradise (1920年出版」)において初めて使用されたとされており、ポロシャツが若い世代を中心に流行することになったことも知られている(寺澤芳雄編「英語語源辞典」、松村赳=富田虎男編著「英米史辞典」等参照)。そして、ポロシャツという名称は、米国にとどまらず、我が国を含め、広く各国において、普通名詞として用いられている。このように、「ポロ」ないし「POLO」、「Polo」の語は、ラルフ・ローレンの商標として使用されてはいるが、語源的には普通名詞なのである。また、ラルフ・ローレンがこれらの語を商標として使用し始めるのに先立って、ポロシャツの語が、ポロ競技の必ずしも盛んでなかった米国において、衣料品の種類を示す名称として広く使用されていたことも明らかである。これらの事情の下においては、「ポロ」ないし「POLO」、「Polo」の商標は、商標の本質的な機能の1つである商品の出所を表示する機能がある程度減殺されていると見るべきである。
 さらに、商標登録出願された商標の中に「ポロ」ないし「POLO」、「Polo」の字句が含まれている場合であっても、「ポロ」ないし「POLO」、「Polo」の語と結合された語がラルフ・ローレン以外の商品の出所を強く連想させるときや、当該商標の構成中にラルフ・ローレンとの関連性を打ち消す表示が含まれているときなどは、商標法4条1項15号該当性が否定され、商標登録を受けられる余地があるというべきである。





「ジーンズのバックポケット」商標登録無効審決取消請求事件(リーバイス)

事件番号  平成20年(行ケ)第10449号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成21年05月12日
裁判所名  知的財産高等裁判所  
判決データ:  TM-H20-Gke-10449.pdf

第2 事案の概要
1 本件は、原告が有する下記商標(本件商標)登録について、被告が商標登録無効審判請求をしたところ、特許庁が本件商標は商標法4条1項15号(混同を生ずるおそれ)に違反するとしてこれを無効とする審決をしたことから、これに不服の原告がその取消しを求めた事案である。
2 争点は、本件商標が他人である被告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標に当たるか(商標法4条1項15号)、である。

    記
・商標(本件商標)
      

・指定商品  第25類 「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、仮装用衣服、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」
・出願日  平成17年6月8日
・登録日  平成18年1月13日
・登録   第4920906号
第3 当事者の主張
1 請求の原因
(1) 特許庁における手続の経緯
原告は、平成17年6月8日に上記内容の本件商標について商標登録出願をし、平成18年1月13日に登録第4920906号として設定登録を受けた(甲1の1、2)。これに対し被告は、平成19年10月29日付けで商標法4条1項10号(周知商標と類似)・11号(登録商標と類似)・15号(混同を生ずるおそれ)を理由として本件商標登録の無効審判を請求した。
 特許庁は、上記請求を無効2007−890169号事件として審理した上、平成20年10月21日、「登録第4920906号の登録を無効とする。」旨の審決をし、その謄本は平成20年10月31日原告に送達された。
(2) 審決の内容
審決の内容は、別添審決写しのとおりである。その理由の要点は、本件商標登録は商標法4条1項10号・11号には違反しないが、被告が有する下記引用商標1及びこれと酷似した被告のバックポケットの形状の周知著名性の程度は極めて高く、本件商標をその指定商品に使用すると被告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるから、同法4条1項15号に違反する、というものである。
    記
・商標(引用商標1)
     

・指定商品  第20類 「クッション、座布団、まくら、マットレス」
        第24類 「布製身の回り品、敷布、布団、布団カバー、布団側、まくらカバー、毛布」
        第25類 「被服」
 (平成16年9月8日の書換登録後)
・出願日  昭和46年2月24日
・登録日  昭和58年5月26日
・登録   第1592525号

(判旨)
2 本件商標登録の法4条1項15号該当性の有無について
 審決は、本件商標登録には法4条1項15号(混同を生ずるおそれ)に該当する事由があるとして同登録は無効であると判断し、原告はこれを争うので、以下、同登録に上記無効事由があるかどうかについて判断する。
(1) 法4条1項は、その10号から15号において、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標を不登録事由と定めているが、その規定の仕方からみると、典型的に混同を生ずるおそれのある例を10号ないし14号において具体的に規定するほか、それ以外で混同を生ずるおそれがある商標についての登録を排除するため、いわば一般条項ないし総括規定として15号を設けたものと解される。
 そして、上記のような法4条1項10号ないし15号の趣旨からすると、15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品等に使用したときに、当該商品等が他人の商品等に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(広義の混同を生ずるおそれ)がある商標を含むものと解される。そして、「混同を生ずるおそれ」の有無は、@当該商標と他人の表示との類似性の程度、A他人の表示の周知著名性及び独創性の程度、B当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、C用途又は目的における関連性の程度、D商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきものである
(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。

(中略)

(3) 検討
ア まず本件商標と引用商標1の類似性の程度についてみると、本件商標の構成は、前記のとおり、上部が下部よりも広がったホームベース形のポケット形状の外周に沿って3本(上辺)ないし2本(その余)の破線の縫い目(ステッチ)を入れ、内部のほぼ中央に2本のステッチが入っている。
 そのステッチはポケットのほぼ中央の若干下部を中心とし、そこから波形に左右に延びる2本の線で構成され、右側に延びるものが左側に延びるものよりも上部に延びており、線対称ではない。また上下の線の間は等間隔ではなく、右側では中央を離れるに従って広がり、左側は最も高い辺りでの幅が広くなり、左端に向かうにつれ一端狭くなった後、左端付近が一番広くなっている。一方、被告バックポケットの形状は、基本的には引用商標1のとおりであって、上部が下部よりも広がったホームベース形のポケットの外周に沿って2重にステッチを施し、ポケットの中央下部を中心としてそこから弓形に左右に延びる2本線で構成される線対称のステッチがあるものである。そして両者は、いずれも上部が下部よりも広がったホームベース形のポケットの外周に沿って2重にステッチを施し、ポケットの中央下部を中心としてそこから左右に延びる2本のステッチで構成される基本的な態様が共通することから、両者は相当程度近似する形状であると認めることができる。
イ 次に基本的に引用商標1の形状を有する被告バックポケットの表示の周知著名性及び独創性の程度についてみると、被告バックポケットの形状は、ジーンズの元祖ともいえるメーカーによるものとして100年以上にわたり基本的に変化がなく、バックポケットの形状に注意を喚起する旨の多数の宣伝広告がされ、我が国においてもトップレベルの販売実績・シェアを持つこと等により、本件商標の出願時(平成17年6月8日)及び登録時(平成18年1月13日)において、ファッション関連商品の取引者及び一般消費者を含む需要者の間で広く知られており、しかもその周知著名性の程度は極めて高いものであると認めることができる。
ウ 次に本件商標の指定商品等と被告の業務に係る商品等との間の性質についてみると、本件商標の指定商品は、前記のとおり、第25類「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、仮装用衣服、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」であり、これに対し、引用商標1の指定商品は第20類「クッション、座布団、まくら、マットレス」、第24類「布製身の回り品、敷布、布団、布団カバー、布団側、まくらカバー、毛布」、第25類「被服」であって、本件商標と被告の業務に係る商品との関連性の程度は高いというべきである。
エ さらに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情についてみると、前記のとおりファッション関連商品の取引者及び一般消費者を含む需要者が共通性を有していることが明らかである。
オ 以上を総合すると、本件商標をその指定商品について使用したときには、引用商標1又は被告バックポケットの形状が強く連想され、本件で想定される一般消費者を含む取引者ないし需要者において普通に払われる注意力を基準とした場合、被告ないし被告と関係のある営業主の業務に係る商品等であると誤信させ被告の商品等との混同を生じさせるおそれがあると認めるのが相当である。
 そうすると本件商標は、被告の商品と混同を生じさせるおそれがあるものとして、法4条1項15号に該当するということになり、その旨をいう審決の判断に誤りはない。





「ジーンズのバックポケット」商標登録無効審決取消請求事件

事件番号  平成16年(行ケ)第85号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成16年10月20日
裁判所名  東京高等裁判所  
判決データ:  TM-H16-Gke-85.pdf

 第2 事案の概要
 本件は、後記本件登録商標の商標権者である原告が、被告請求に係る無効審判において、本件商標登録を無効とするとの審決がされたため、同審決の取消しを求めた事案である。
 1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件登録商標
 商標権者 :株式会社エドウイン(原告)
 本件商標 :別紙1の@「本件商標」として記載された構成からなるもの。
 指定商品 :第25類「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、仮装用衣服、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」
 登録出願日:平成12年9月22日(商願2000−103513号)
 登録査定日:平成13年6月6日
 設定登録日:平成13年7月13日
 登録番号 :第4490954号
 (2) 本件手続
 無効審判請求日:平成15年2月3日(無効2003−35035号)
 審決日    :平成16年1月27日
 審決の結論  :「登録第4490954号の登録を無効とする。」
 審決謄本送達日:平成16年2月6日(原告に対し)
 2 審決の理由の要旨
 (1) 被告は、審判において、本件商標登録の無効理由として、本件商標が商標法4条1項11号及び15号に違反して登録されたものであると主張した。
 審決は、いずれも被告を商標権者とする登録第1592525号商標(以下「引用商標1」という。別紙1のA「引用商標1」として記載された構成からなるもの。昭和46年2月24日に登録出願され、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として、昭和58年5月26日に設定登録されたもの。)及び登録第2205094号商標(以下「引用商標2」という。別紙1のB「引用商標2」として記載された構成からなるもの。昭和55年9月30日に登録出願され、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)その他本類に属する商品」を指定商品として、平成2年1月30日に設定登録されたもの。)を引用商標として、検討した。
 (2) 審決は、商標法4条1項11号違反の点について検討し、本件商標と引用商標1及び引用商標2とは、互いに類似するとはいえないとして、同条項に違反するとはいえないと判断した。
 (3) 審決は、商標法4条1項15号違反の点について検討し、概ね以下のとおり説示して、本件商標は、商標法4条1項15号に違反して登録されたものというべきであると判断した。

(判旨)
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(商標法4条1項15号の適用範囲に関する解釈の誤り)について
 商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきであって(最高裁平成12年7月11日第3小法廷判決・民集54巻6号1848頁)、上記に掲げた個々の事情ごとに峻別して悉無律的にその存否を判断するのではなく、個々の事情ごとにその程度を検討した上、最終的にこれらを総合して「混同のおそれ」の有無を決すべきものである。すなわち、「混同を生ずるおそれ」の要件の判断においては、当該商標(本件商標)と他人の表示(引用商標1)との類似性の程度が商標法4条1項11号の要件を満たすものでないにしても、その程度がいかなるものであるのかについて検討した上、他人の表示(引用商標1)の周知著名性の程度や、上記諸事情に照らして総合的に判断されるべきものである。また、周知著名性については、「混同を生ずるおそれ」の有無を判断する上で、周知性と著名性とを峻別して検討する必要性は通常考えられないから、特段の事情がない限り、周知著名性を一体としてその程度を検討すれば足りるものというべきである。
 そうすると、審決が、本件商標と引用商標1とを非類似とし、引用商標1の形状と酷似した被告バックポケットの形状が著名であるとはいえないとしながら、周知著名性の程度やその他の諸事情を検討し、結論として、同条項への該当性を認めたとしても、そのこともって直ちに違法というべきものではない。また、同条項の該当の要件として、周知では足りず、著名であることを要すると解することもできない。
 以上のとおりであるから、この点に関する原告の主張は、採用の限りではない。
 2 取消事由2(商標法4条1項15号における出所混同の認定判断の誤り)について
 (1) 原告は、審決の誤りは別件東京高裁判決の不当な影響があるといい、被告も本件審決に至る経緯として、別件の紛争について述べる。そこで、本件に関係する限度で、この点をみておくと、前記事案の概要として記載した事実のほか、証拠(乙3、4)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
 (a) 本件被告は、本件原告に対し、平成8年に、不正競争防止法に基づき、本件原告の使用する標章(東京地裁平成12年6月28日判決(乙3)添付の別紙2「被告(注:本件原告)標章目録(一)」及び「同(二)」に記載の標章。本判決添付の別紙2「別件の原告標章目録(一)」及び「同(二)」に同じ。以下「別件の原告標章」という。)の使用差止め等を求める訴訟を提起した。
 上記訴訟では、別件の原告標章が、上記地裁判決添付の別紙2「原告(注:本件被告)標章目録(一)」及び「同(二)」に記載の標章(本件の引用商標1にほぼ同じ。以下「別件の被告標章」という。)との関係で、不正競争防止法違反に当たるかどうかが争点となった。
 (b) 東京地裁は、平成12年6月28日に上記請求を認容する判決を言い渡した。同判決は、別件の被告標章は、周知となっているとした上、別件の被告標章と別件の原告標章とは、類似すると認定した。その理由として、@ジーンズのバックポケットに付されたステッチであること、A左右二つのアーチからなること、B左右二つのアーチは線対称であること、Cそれぞれのアーチは、ほぼ平行な二本の曲線からなること、D二本の曲線は、両端部分から中央部分に向かって、円弧を描くようにして次第に下降し、中心部で交差していることなどの共通点が挙げられた。そして、別件の被告標章は、別件の原告標章と比べて、両端部分と中央部分との高低差が大きいこと、別件の被告標章は、二本の曲線が中央部で互いに交差し、中央部にひし形の図形を形成しているのに対し、別件の原告標章は、そのような図形がないなどの点で相違するとの本件原告の主張は、わずかな点にすぎず、多くの共通点に照らして、類似との結論を左右するものとはいえないとして、排斥された。そして、同判決は、両標章による誤認混同のおそれを肯認して、本件被告の請求を認容した。
 (c) 本件原告は、同判決に対して控訴を提起するとともに、平成12年9月22日本件商標の出願をした。
 そして、控訴審係属中である平成13年6月6日に上記出願につき登録査定を受け、同年7月13日に設定登録がされた。
 (d) 東京高裁は、上記控訴事件につき、平成13年12月26日に上記地裁の差止認容判決を維持するとの判決(乙4)を言い渡し、同判決は確定した。
 同判決は、両標章の類似性について、次のように判示した。
 「両者は、ジーンズのバックポケットに付されたステッチであって、バックポケットの外周近くで概ねその形状に沿って五角形を形成する2本の線の部分と、バックポケット左右の各辺からその内部に形成された2本の曲線の部分とからなるものであって、バックポケット内部に形成された部分は、バックポケットの左右各辺からバックポケット横方向中央にかけての部分に、それぞれがほぼ平行な2本の曲線からなるアーチが左右一つずつ、計二つ形成され、それが横方向中央において結合する形状からなり、上記左右の各アーチは、バックポケット横方向中央に想定される縦軸について線対称であるという基本的な構成態様において共通である。また、両標章は、細部の形状において、バックポケット内部の左右のアーチが、いずれもバックポケット左右の各端部から横方向中央部分に向かって、最初はわずかに上昇するものの、すぐに下降し、バックポケット横方向中央部において結合する位置が、左右の各端部の位置よりも低くなっている点、バックポケット外周に沿う2本の線が、上辺及び下方の2辺に沿う部分においてはほぼ平行であるものの、左右各辺に沿う部分においては、2本の線の間隔が上方で下方よりも広がっているという点でも共通性を有するものである。」
 そして、同判決は、バックポケット内部の二つのアーチの曲率の差異、バックポケット横方向中央部において結合する位置と左右の各端部の位置の高低差の差異、二つのアーチがバックポケット横方向中央部において結合する位置における形状の差異、バックポケット外周のうち左右各辺に沿う2本の線の上方の間隔の広がり具合の差異をも考慮し、両標章は類似するものと認めた。そして、判決は、誤認混同のおそれを肯認した。
 (e) 被告は、平成15年2月3日、本件商標登録の無効を主張して、本件審判を請求した。
 (2) 本件商標と引用商標1(被告バックポケットの形状)との類似性の程度(原告主張の近似性)について
 (a) 本件商標は、別紙1の@本件商標として掲げたとおりのものであり、引用商標1は、別紙1のA引用商標1として掲げたとおりのものである。
 審決は、これらの商標の構成につき、次のとおり認定した。
 「本件商標の構成は、…左右対称の野球のホームベース状の五角形を実線で描き、その各辺の内側に沿って二重の破線を配し、この五角形図形の中央部分に欧文字の「S」字状の図形を描き、その左右に該五角形図形を上下に二分するように二重の破線をもって、アーチ形状の図形を描き、この五角形図形の上辺の右内側部分に、黒塗り四角形を配し、この図形内に「SOMETHING」の文字を書してなるものである。これに対して、引用商標1の構成は、…左右対称の野球のホームベース状の五角形を実線で描き、その各辺の内側に沿って二重の破線を配し、この五角形図形を上下に二分するように二重の破線をもって、左右二つのアーチ形状の図形を描いてなり、この五角形図形の左辺の左外側部分に、縦長の四角形を配し、該図形内に縦書きで「LEVI'S」の欧文字を書してなるものである。」
 証拠(甲1、乙1、2)によれば、上記認定は是認し得るものである。そして、両者を対比すれば、本件商標と引用商標1の形状は、ステッチがともに二重の破線をもって、五角形の外周部左右両辺からバックポケットの中央部に向かって形成され、これが中央部で下向きに形成されており、両ステッチ部分の形状をおおまかに観察すれば、互いに近似する形状であって、この点において、両者は構成の軌を一にするといえるとした審決の認定も、是認し得るものである。
 なお、原告は、本件商標及び引用商標1の各文字部分に対応する称呼が生ずると主張するが、本件商標及び引用商標1の構成に照らせば、特段の称呼が生じるものとは認め難く、この点が類似性の程度の認定に直ちに影響するものとはいえない。
 (b) 原告は、ステッチ中央部における結合の有無の点で相違することを主張する。
 確かに、別紙1の@本件商標とA引用商標1とを対比すれば、後者が結合しているのに対し、前者のアーチ形状のステッチ(内部破線)は、結合していない。しかし、本件商標のアーチ形状のステッチを仔細に見分すれば両者が結合していないとわかるのであるが、アーチ形状のステッチの中央部に前記のように欧文字の「S」字状の図形が描かれていることから、看者に対し、左右に分かれたアーチ形状のステッチの間を欧文字の「S」字状の図形が結んでいるかのような印象を与えるものである。なお、「S」が「SOMETHING」の頭文字であるとの原告の説明を聞けば、そのように首肯し得るが、両者の「S」の字体が異なっており、しかも、「S」がアーチ形状のステッチに挟まれる形で存在することから、図形(模様)のようにも見えてしまうのであって、仔細にみれば、左右のアーチ形状のステッチと「S」との表示は、結合はしていないが、看者に対して、上記のように一連の繋がりのあるものとの認識を与えることは否定できない。その結果、引用商標1のアーチ形状のステッチと似たものと受け止められる可能性が大きいと認められる。
 (c) 原告は、上記中央部の「S」と「ダイヤモンドポイント」との相違をも主張する。
 確かに、本件商標の中央部には欧文字の「S」字状の図形があり、引用商標1の中央部には、「ダイヤモンドポイント」と呼ばれている別紙1のA引用商標1のような形状の構成となっていることが認められる。
 原告は、「S」について、「SOMETHING」の頭文字であり、「SOMETHING」ブランドの卓越した著名性と相まって、需要者に強烈な印象を与えると主張する。そして、バックポケットの中央に何らかの1個の文字を象徴的に付することは斬新で画期的であるとも主張する。
 しかし、前判示のとおり、「S」が「SOMETHING」の頭文字であるとの原告の説明を聞けば、そのように首肯し得るが、ジーンズパンツの需要者及び取引者が単に本件商標に接した場合に、「S」が「SOMETHING」の頭文字であると理解するのは必ずしも容易ではないこと(「S」の一文字が「SOMETHING」ブランドの略称ないしマークであるとして広く知れ渡っていることを認めるに足りる証拠もない。)、また、「SOMETHING」の「S」と中央にある「S」とは、字体が異なっていること、さらに、図形というべき左右のアーチ形状のステッチに挟まれて、単独で存在する「S」の表示は、看者にとって、文字であると必ずしも判然とわかるものではなく、図形(模様)のようにも見えてしまうことなどに照らせば、原告の主張するように、「S」の部分が需要者に強烈な印象を与えるものとは認められない。
 一方、引用商標1の「ダイヤモンドポイント」は、被告の使用するバックポケットのステッチにおける特徴的な形状の一部ではあるが、その部分は決して大きくはないことも考えれば、上記「S」との差異は、看者に与える印象としてもそれほど強くはないと認められる。
 なお、原告は、「S」を付すことの斬新性をいうが、通常は、工程上ないしコストの上から文字を付することがないというものであって、この点は、商標の類似性の程度に関する認定に格別影響を与えるものではない。
 (d) 原告は、アーチ形状のステッチ(破線)の曲がりの度合いの相違も主張する。
 確かに、本件商標と引用商標1とでは、曲がりの度合いに差異が認められる。しかし、両者のアーチ形状のステッチ(破線)は、2重の平行の破線により、五角形の外周部左右両辺からバックポケットの中央部に向かって形成され、これが中央部で下向きに形成されており、中央部を垂直に通る直線を基準としてほぼ左右対称となっているものである点では、共通しており、やや曲がりの角度に差異が認められるにすぎない。
 なお、原告は、左右対称の2つのアーチ状のステッチは、他社のバックポケットでも使用されていると主張するが、後記のとおり、引用商標1のステッチの形状は、被告の商品を連想させるものとして周知著名性の高いものであり、本件商標の登録出願及び登録査定の当時において、被告を示す識別表示としての機能が失われていたことを認め得る証拠はないのであるから、原告主張の事実をもって、直ちに、本件商標と引用商標1との類似性を否定すべきことにはならない。
 (e) 原告は、本件商標には「SOMETHING」の文字が、引用商標1には「LEVI'S」の文字が含まれることを主張する。
 確かに、両商標には、上記の文字が含まれている。そして、「LEVI'S」の名称の周知著名性が極めて高く、「SOMETHING」もその売上実績(甲86)などに照らせば、女性用ジーンズのブランドとして相当程度の周知著名性を有しているものと認められる。そして、両者の文字部分(タブ)は、それ自体に特徴があるともいい得る。しかし、これらの点を考慮しても、商標全体の構成の中でみれば、文字部分は、面積的にも、看者に与える印象の点でも、それほど大きい部分を占めるものではなく、ステッチを含むバックポケット全体の構成の類似性の判断に占める要素としては強力なものであるとは認められない。
 なお、本件商標における「SOMETHING」の表示は、黒地に白抜きで比較的目につきやすいとはいえるが、上記認定を左右するに足りるものとはいえない。また、原告は、実際の商品においては、「SOMETHING」の文字を付さないで使用している場合がある(乙5)。原告は、準備書面(二)において、デザイン上の観点から「SOMETHING」の横タブが含まれないバックポケットを使用したジーンズも併せて販売するようになった旨の説明をしているが、そうであれば、原告自身、バックポケットの構成要素として「SOMETHING」の文字部分を重視していないものともいえる。
 (f) 以上によれば、「両者におけるアーチ形状のステッチ中央部の相違は、前記した両者の近似性を凌駕するほどの顕著なものとは認められない。」とした審決の判断は是認し得るものであり、また、後記検討結果をも考慮すれば、審決が「各文字部分の存在をもって、両商標間の広義の混同のおそれを否定することはできない。」とした判断も是認し得るものである。
 そして、本件において、最高裁平成13年7月6日第2小法廷判決における福田博裁判官の補足意見にいう商標法4条1項15号該当性が否定され、商標登録を受けられるとすべき事情が存在するということはできない。
 原告は、類似性の程度に関して種々主張するが、いずれも採用することができない。
 (3) 引用商標1(被告バックポケットの形状)の周知著名性について
 (a) 証拠(乙6〜101〔枝番号を含む〕)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、1853年に設立されたジーンズパンツの草分けとなったメーカーであり、100年以上もの間にわたって、多少のデザインの変化はあるが、基本的に引用商標1に示された構成又はこれに酷似したバックポケットを使用してきていること、被告は、我が国においても、昭和40年代から長年にわたって、男性誌、女性誌を問わず、各種雑誌に広告を掲載し、テレビコマーシャルも放送し、過去10年間において毎年約15億円から29億円をかけて宣伝広告をしていること、各種雑誌記事等においては、被告の商標である「LEVI'S」と並んで、引用商標1の外周五角形形状とその内部の二つのアーチ形状が掲載されていること、被告のジーンズパンツの日本における売上げは、平成7年(前年12月1日から同年11月30日までを会計年度とする売上高、以下同じ。)から平成11年は、250億円を超え、平成12年から平成15年までも、平成13年を除き年間売上高が200億円を超えており、平成13年の年間売上高も200億円近くあること、平成7年から平成15年までの期間における被告のジーンズパンツの売上総数は5千万本を超えていること、これらのジーンズパンツ売上げのうち、大半のジーンズパンツには、引用商標1が使用されていること、被告は、平成11年7月から平成12年5月までの間、全国3箇所において、「リーバイス ヒストリー展」を開催し、当該展覧会のポスター、チラシ及び入場券では、「LEVI'S」との欧文字と、引用商標1が使用された被告のジーンズパンツのバックポケットを16個並べた写真が用いられており、展覧会の延べ入場者数は約3万6千名であったこと、その他、宣伝広告としてではなく、雑誌等の特集によって、引用商標1が用いられた被告の商品が掲載されることもあったことが認められる。
 (b) 以上の事実によれば、引用商標1及びこれに酷似した被告バックポケットの形状は、ジーンズパンツの需要者・取引者の間に広く認識されており、著名といえるまでに至っているかどうかはともかく、その周知著名性の程度は、極めて高いものであると認められる。
 (c) 原告は、「LEVI'S」の表示が著名であることによって、需要者は、ステッチの形状には着目ないし意識しないこと、ジーンズの店舗での陳列方式からステッチは見えにくいことなどを種々主張するが、上記認定のとおり、引用商標1及びこれに酷似した被告バックポケットの形状は、需要者に広く知られており、高度の周知著名性を有するのであって、原告主張は、採用の限りではない。
 (4) 原告は、審決が取引の実情について不当に軽視していると主張する。
 検討するに、原告は取引の実情として種々主張するが、ジーンズパンツについて原告主張のような販売形態及び購入形態がいかなる店舗でも例外なくとられているといった特殊な事情があるとは証拠上全く認められず、取引の実情からしても、一般需要者の混同を生ずるおそれを否定することはできない。
 また、原告及び被告が現在の日本における二大ジーンズメーカーとして著名であるとしても、上記認定を覆すに足りるものではない。
 (5) 以上のとおりであり、本件商標と引用商標1は、前判示の程度の類似性を有するのであり、引用商標1及びこれに酷似した被告バックポケットの形状の周知著名性の程度が極めて高いものである。そして、引用商標1がデザインとして創作されたものか、自他識別のために創作されたものかは、当事者間に争いがあるものの、いずれにしても、ステッチの形状を含め、機能等の観点から、引用商標1のような形状にならざるを得ないというものではないことでは、争いがない。そうであれば、数々とり得るバックポケットの構成から、引用商標1のような構成を採用したという点では、一定の創作性が認められる。また、本件商標の指定商品が「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、仮装用衣服、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」であることは前記のとおりであり、一方、被告の使用に係る被告バックポケットの形状も既に認定したとおり、ジーンズパンツに係るものであるから、両者の商品は、同一あるいは互いに極めて関連性の深い商品といえる。そして、商品等の取引者及び需要者が共通性を有することも明らかである。これらに加え、既に検討した取引の実情などに照らし、取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に本件商標の登録出願時及び登録査定時における混同を生ずるおそれを判断するならば、本件商標をその指定商品について使用したときには、引用商標1又は被告バックポケットの形状が強く連想され、被告ないし被告と関係のある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれがあると認められる。よって、本件商標は、商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」であるというべきである。
 なお、原告は、原告が被告の商標へのフリーライドをしようとすることはあり得ないとの趣旨を主張するが、上記条項は、フリーライドのみならず、ダイリューションなどをも防止する趣旨であると解されるのであるから、仮にフリーライドでないとしても、直ちに、上記条項への該当性が否定されることにはならない。よって、原告の主張は、採用の限りではない。
 3 結論
 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。


            
   本件商標                                   引用商標1  商標登録第1592525号



参考事件判決
事件番号  平成8年(ワ)第12929号
事件名  不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日  平成12年06月28日
裁判所名  東京地方裁判所 
判決データ:  UF-H08-wa-12929.pdf   UF-H08-wa-12929-1.pdf


上記事件の控訴審判決
事件番号  平成12年(ネ)第3882号
事件名  不正競争行為差止等請求控訴事件
裁判年月日  平成13年12月26日
裁判所名  東京高等裁判所
判決データ:  UF-H12-ne-3882.pdf   UF-H12-ne-3882-1.pdf





「巨峰」商標の使用差止仮処分申請事件

事件番号  昭和44年(ヨ)第41号
事件名  商標の使用差止仮処分申請事件
裁判年月日  昭和46年09月17日
裁判所名  福岡地方裁判所   飯塚支部
判決データ: TM-S44-yo-41.pdf   TM-S44-yo-41-1.pdf

 要するに本件A・B各段ボール箱に表示された「巨峰」「KYOHO」の標章は、その客観的機能からみても、又これを製造している被申請人の主観的意図からみても、内容物たる巨峰ぶどうの表示であり、包装用容器たる段ボール箱についての標章の使用ではないというべきである。しかりとすれば、被申請人の別紙目録記載の物件の製造販売は、申請人の本件商標権に対する侵害行為を構成するものとは認められず、他に、別紙目録記載の物件が、申請人の本件商標権の侵害物件であることを認めるに足りる疏明はない。


「巨峰」商標権侵害差止請求事件

事件番号  平成15年(ネ)第76号
事件名  商標権侵害差止請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所 平成13年(ワ)第9153号)
裁判年月日  平成15年06月26日
裁判所名  大阪高等裁判所
判決データ: TM-H15-ne-76.pdf    TM-H15-ne-76-1.pdf

 被告標章は、本件登録商標の指定商品である前記商品の区分第47類中の「葡萄」に当たる本件品種のぶどうを表す普通名称を、普通に用いられる方法で表示したものと認められる。したがって、商標法26条1項2号により、本件商標権の効力は被告標章に及ばず、本件専用使用権の効力も被告標章に及ばないから、原告の請求はいずれも理由がなく棄却すべき・・・





「シャディ」商標拒絶審決取消請求事件

事件番号  平成11年(行ケ)第390号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成12年08月29日
裁判所名  東京高等裁判所 
判決データ:  TM-H11-Gke-390.pdf

(イ) WIPOにおける商標登録を目的とする商品及びサービスの分類専門委員会及び準備作業部会では、1987年以来、国際分類第35類又は第42類に「小売店サービス」を追加すべきかどうかについて議論されてきたものの、反対する国が多く、数年にわたって議論が繰り返されてきたにもかかわらず、多くの参加国から追加することに対する同意が得られる状況にはなかった。
(ロ) 1994年4月11日から15日まで開催された上記作業部会(第14会期)では、参加国のうちイギリス、フランス、アメリカ(国名は、いろは順。以下同じ)が、サービスマークの登録に関し、小売店サービスが、どのように取り扱われているか、また、特に注目しているかの説明を求められ、「フランスにおいては、サービスは、それが特定されるものである場合のみ保護されるというのが決まりであり、小売店サービスとの表現はあまりに不明瞭であり、この決まりに違反するものである。」、「英国においては、英国裁判所は、小売りサービスを含むサービスを指定するサービスマーク登録出願の拒絶査定に対する訴訟について却下の決定をしている。それは、小売りサービスの表現は、小売りという語が商品の販売の一形態を意味するという固有の矛盾を含んでおり、また、その表現は、登録権者の排他権の範囲を定義するにはあまりにも明確でないという矛盾も含んでいるという理由に基づく。」、「米国は、小売店サービスに関するサービスマークは保護されており、そのマークの所有者は、その所有者が商品の製造もするものでない限り、同一又は類似の商標のもとで登録された商品の所有者とはみなされない。」との趣旨の説明がなされた。
 上記作業部会は、「小売店サービス」は、あまりにも不明確であり、その表現によってどのようなサービスがカバーされるかの混乱を引き起こすことになるという理由で、ニース国際分類に用いるには不適当であるとするとともに、第35類についての注釈中の「この類には、特に、次のサービスを含む」の項に、小売に関するサービスは第35類で保護するとの意図の下で、「他人の利益のために各種商品を揃え(運搬を除く)、消費者がこれらの商品を便利に眺められ、購入することができるようにすること」との文言を加入するとされた。
(ハ) 1995年11月開催の専門家委員会(第17会期)における議論で、国際分類第35類の注釈の「この類には、特に、次のサービスを含む」の後に「他人の便宜のために各種商品を揃え(運搬を除く)、顧客がこれらの商品を見、かつ、購入するために便宜を図ること。」との文言を採択し、それとともに、この注釈の文言中の「他人」の語は、例えば、顧客、各種商品の製造者等をいうのであって、商品の品揃えサービスを行うサービスの提供者ではないこと、第35類のリスト中に「小売店サービス」に関係する表示を含むことは、該表示に関する国際登録標章の保護の範囲又はそのような標章の承認の決定に関して、いかなる国をも束縛するものではないことが確認された。





「DALE CARNEGIE」商標不使用取消審決取消請求事件

事件番号  平成12年(行ケ)第109号
事件名  不使用取消審決取消請求事件
裁判年月日  平成13年02月28日
裁判所名  東京高等裁判所
判決データ:  TM-H12-Gke-109.pdf

・・・甲第6、第7号証の印刷物は、専ら「デール・カーネギー・コース」等の本件講座の教材としてのみ用いられることを予定したものであり、本件講座を離れ独立して取引の対象とされているものではないというほかなく、したがって、これらを商標法上の商品ということはできない。また、その表紙に付された「DALE CARNEGIE」の記載については、それぞれ「デール・カーネギー・コース」ないし「デール・カーネギー・トレーニング」との名称の講座の教材であることを示す「The/DALE CARNEGIE<R>/Course」ないし「DALE CARNEGIE<R>/TRAINING」との記載の一部分にすぎないから、題号としての使用にとどまるか、本件講座に係る役務の出所又は役務の内容を表示するものであって、いずれにせよ、当該印刷物自体の識別表示と解することはできないから、当該印刷物について本件商標の使用がされたということもできない。なお、「<R>」のマークは、本来、米国における商標登録の表示形式であって、日本において登録商標の表示として公認されている法定形式ではないから(商標法73条、同法施行規則17条参照)、これが付されていることは、上記判断を左右するものではない。





「BOSS」商標損害賠償請求事件

事件番号  昭和61年(ワ)第7518号
事件名  損害賠償請求事件
裁判年月日  昭和62年08月26日
裁判所名  大阪地方裁判所
判決データ:  TM-S61-wa-7518.pdf   TM-S61-wa-7518-1.pdf

第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有している。
 登録番号 第六九五八六五号
 出願日 昭和三九年三月二八日
 公告日 昭和四〇年八月五日
 登録日 昭和四一年一月二二日
 更新登録日 昭和六一年三月一三日
 指定商品 第一七類 被服、布製身回品、寝具類
 登録商標の構成 別添商標公報のとおり
2 被告は、本件商標と同一の標章を附したTシヤツ、トレーナー、ジヤンパー等の衣類を訴外ジヤツクマン株式会社に製造させ、被告の取引先を通じて多数の消費者に販売し、又は無償で引渡してきた。
 右Tシヤツ等は商標法にいうところの「商品」であり、しかも本件商標の指定商品に属するから、被告の右行為は原告の本件商標権を侵害する。
3 原告は、本件商標を使用して衣類の製造、販売を業としていたが、被告の本件商標権侵害行為により、原告の主力取引先等から本件商標を附した商品についての出所の誤認混同を生じることを理由に取引の停止を通知され、主力取引先への販売が不能となつた。被告の本件商標権侵害行為により、原告は、昭和五九年五月二〇日から同六一年八月二〇日までの間に売上利益の減少額一二七六万六三三一円の損害を被つた。
4 よつて、原告は被告に対し、本件商標権侵害に基づく損害金一二七六万六三三一円の支払を求める。

(判旨)
 ・・・被告製品であることにつき争いのない検甲第一号証、証人【A】の証言及び弁論の全趣旨によれば、被告は電子楽器等の製造、販売を業とする会社であるが、その製造、販売する電子楽器等に別紙商標目録記載の商標(以下「BOSS商標」という。)を使用しているところ、昭和五四年頃から電子楽器類の宣伝広告及び販売促進用の物品(ノベルテイ)として、Tシヤツ、トレーナー及びジヤンパーにBOSS商標を附したものを、被告の主張2(1)ないし(3)記載のような方法で被告製造の電子楽器の購入者に直接又は販売店を通じて無償で配付してきたこと、右Tシヤツ等は被告が訴外ジヤツクマン株式会社に発注して製造させるものであるが、その価額はTシヤツが一〇〇〇円、トレーナーが二〇〇〇円、ジヤンパーが三〇〇〇ないし四〇〇〇円程度であること、右Tシヤツ等にBOSS商標を附している態様は、Tシヤツ及びトレーナーについては胸部中央に大きくBOSS商標が表示され、襟タツグにも表示されており、ジヤンパーについては左胸部分及び背中中央部に表示されており、右のうちTシヤツについては、胸部に表示されたBOSS商標の下にこれより小さい文字で「for sound innovation on stage」と表示され、襟タツグのBOSS商標の下にもやはりこれより小さい文字で「a sound innovation」「JAPAN」と二段に表示されていることが認められる。
 なお、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三によれば、訴外ローランド株式会社を出願人として、指定商品第一一類、電気通信機械器具、その他本類に属する商品並びに同第二四類、楽器、演奏補助品、蓄音機(電気蓄音機を除く)、レコード、これらの部品及び附属品につき「BOSS」の商標及び大きい「●」のマークの下に「BOSS」の横書きの文字を配して成る商標等が公告になつていることが認められ、右事実と弁論の全趣旨によれば、被告は右ローランド株式会社からBOSS商標の使用許諾を受けているものと推認される。

(中略)

 そこで、右認定事実を前提として、被告がBOSS商標を附したTシヤツ等を電子楽器の購入者に配付している行為が本件商標権の侵害行為となるかどうかを考える。
 商標法上商標は商品の標識であるが(商標法二条一項参照)、ここにいう商品とは商品それ自体を指し商品の包装や商品に関する広告等は含まない(同法二条三項参照)。商標権者は登録商標を使用する権利を専有し、これを侵害する者に対し差止請求権及び損害賠償請求権を有するが、それは商品についてである(同法二五条参照)。したがつて、商標権者以外の者が正当な事由なくしてある物品に登録商標又は類似商標を使用している場合に、それが商標権の侵害行為となるか否かは、その物品が登録商標の指定商品と同一又は類似の商品であるか否かに関わり、もしその物品が登録商標の指定商品と同一又は類似ではない商品の包装物又は広告媒体等であるにすぎない場合には、商標権の侵害行為とはならない。そして、ある物品がそれ自体独立の商品であるかそれとも他の商品の包装物又は広告媒体等であるにすぎないか否かは、その物品がそれ自体交換価値を有し独立の商取引の目的物とされているものであるか否かによつて判定すべきものである。
 これを本件についてみるに、被告は、前記のとおり、BOSS商標をその製造、販売する電子楽器の商標として使用しているものであり、前記BOSS商標を附したTシヤツ等は右楽器に比すれば格段に低価格のものを右楽器の宣伝広告及び販売促進用の物品(ノベルテイ)として被告の楽器購入者に限り一定の条件で無償配付をしているにすぎず、右Tシヤツ等それ自体を取引の目的としているものではないことが明らかである。また、前記認定の配付方法にかんがみれば、右Tシヤツ等はこれを入手する者が限定されており、将来市場で流通する蓋然性も認められない。
 そうだとすると、右Tシヤツ等は、それ自体が独立の商取引の目的物たる商品ではなく、商品たる電子楽器の単なる広告媒体にすぎないものと認めるのが相当であるところ、本件商標の指定商品が第一七類、被服、布製身回品、寝具類であり、電子楽器が右指定商品又はこれに類似する商品といえないことは明らかであるから、被告の前記行為は原告の本件商標権を侵害するものとはいえない。






「CONMER」商標登録無効事件(商標法第4条第1項第7号に該当せず)

<原告の本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するのみならず、同項10号、15号にも該当する事由が存在するといえ、商標法第4条第1項第7号には該当しない。>

事件番号  平成19年(行ケ)第10391号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成20年06月26日
裁判所名  知的財産高等裁判所
判決データ:  TM-H19-Gke-10391.pdf

 しかし、本件商標が法4条1項7号に該当するとした審決の判断には、以下のとおり、誤りがあると解する。
 すなわち、確かに、リアルマッコイズ社は、平成4年末から平成7年末にかけてスコービル社との間で、「CONMAR」との表示を付したファスナーの製造委託について交渉したこと、そして、リアルマッコイズ社は、平成10年から平成12年にかけて、被告から「CONMAR」との表示を付したファスナーの供給を受けたことから、リアルマッコイズ社は、「CONMAR」との米国商標が被告に帰属したとの事実を認識していたと推認される事情があったと解される。
 しかし、@原告と被告との間の紛争は、本来、当事者間における契約や交渉等によって解決、調整が図られるべき事項であって、一般国民に影響を与える公益とは、関係のない事項であること、A本件のような私人間の紛争については、正に法4条1項19号が規定する「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的・・・をもって使用をするもの・・・」との要件への該当性の有無によって判断されるべきであること、B被告が米国において有している商標権は、あくまでも私権であり、被告がそのような権利を有したからといって、原告が、日本において、同商標と類似又は同一の商標に係る出願行為をすることが、当然に「公の秩序又は善良な風俗を害する」という公益に反する事情に該当するものとは解されないこと、C被告は、スコービル社から承継した「CONMAR」との文字からなる米国商標(第324689号)に係る商標権については、平成8年3月、更新せずに消滅させており、また、ファスナーについて「CONMAR」との文字からなる米国商標の登録を平成13年12月に受けた者から、同米国商標に係る商標権の譲渡を受けているなどの事情があり、その子細は必ずしも明らかでないこと、D審決において、原告が本件商標の登録を受けたことは認定されているが、それを超えて原告が被告の日本国内への参入を阻止していることを基礎づける具体的な事実は、何ら認定されていないこと、E原告の本件商標の出願は、後記認定のとおり、法4条1項19号に該当するのみならず、同項10号、15号にも該当する事由が存在するといえること等を総合すると、本件について、原告の出願に係る本件商標が「公の秩序又は善良な風俗を害する」とした審決の判断には、誤りがあるというべきである
 したがって、本件商標に法4条1項7号所定の無効事由があるとした審決は取り消すべきものと判断する。

(中略)

 さらに、本件商標は、他人の業務に係る商品(ファスナー)を表示するものとして日本国内及び米国において需要者の間に広く認識されている商標と類似の商標であると認められる。そして、前記(1)の認定事実中、@原告代表者のAは、フライトジャケットやその構成部材であるファスナーについて深い知識を有しており、リアルマッコイズ社及び原告において、中心的な立場で、フライトジャケットやファスナーの取引を行うとともに、ボタン類(ファスナーを含む)等を指定商品とする商標登録(本件商標を含む。)を行っていたこと(前記(1)エ(ウ))、Aリアルマッコイズ社は、スコービル社及び被告と「CONMAR」の表示が付されたファスナーの取引をし、被告により、被告から購入する「CONMAR」との表示を付したファスナーを販売する限りにおいて「CONMAR」との表示を使用する非独占的な使用権を許諾されていたこと(前記(1)オ)、Bリアルマッコイズ社が登録を受けて原告に移転登録された商標及び原告が登録を受けた商標(本件商標を含む。)は、「CONMAR」との表示と類似し又は共通する部分を含むものであること(前記(1)キ)を総合考慮すると、原告は、「CONMAR」との表示がコンマー社及びそのファスナーに関する事業を引き継いだ被告のファスナーの表示として需要者の間で広く認識されていることを知りながら、その表示と類似する本件商標の登録を得てこれを使用するものであり、本件商標は、原告が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用をするものであると認められる。
 したがって、仮に本件商標に法4条1項の1号から18号までの各号に掲げる無効事由がないとしても、本件商標には、法4条1項19号の無効事由があると認められる。





「赤毛のアン(Anne of Green Gables)」事件

<商標法第4条第1項第7号に該当。>

事件番号  平成17年(行ケ)第10349号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成18年09月20日
裁判所名  知的財産高等裁判所 
判決データ:  TM-H17-Gke-10349.pdf

第2 事案の概要
 本件商標(後記)は、カナダ国の小説家ルーシー・モウド・モンゴメリ(以下「本件原作者」又は「モンゴメリ」という。)が著した著名な小説(邦題「赤毛のアン」。以下「本件著作物」という。)の原題である「Anne of Green Gables」との文字から構成されるものであり、その商標権者は原告である。本件は、被告であるカナダ国プリンス・エドワード・アイランド州が、同商標の指定商品のうち第9類について、商標法3条1項柱書き、4条1項5号、同項7号、同項8号、同項15号、同項19号に違反するとして無効審判請求をしたところ、特許庁が、同指定商品についての商標登録は、我が国と被告を含むカナダ国政府との間の国際信義に反してなされたものであり、商標法4条1項7号の規定に違反して無効であるとの審決をしたため、原告が同審決の取消しを求めた事案である。

(中略)

カ 小括
 以上のとおり、@本件商標は、世界的に著名で高い文化的価値を有する作品の原題からなるものであり、我が国における商標出願の指定商品に照らすと、本件著作物、原作者又は主人公の価値、名声、評判を損うおそれがないとはいえないこと、A本件著作物は、カナダ国の誇る重要な文化的な遺産であり、我が国においても世代を超えて広く親しまれ、我が国とカナダ国の友好関係に重要な役割を担ってきた作品であること、Bしたがって、我が国が本件著作物、原作者又は主人公の価値、名声、評判を損なうおそれがあるような商標の登録を認めることは、我が国とカナダ国の国際信義に反し、両国の公益を損なうおそれが高いこと、C本件著作物の原題である「ANNE OF GREEN GABLES」との文字からなる標章は、カナダ国において、公的標章として保護され、私的機関がこれを使用することが禁じられており、この点は十分に斟酌されるべきであること、D本件著作物は大きな顧客吸引力を持つものであり、本件著作物の題号からなる商標の登録を原告のように本件著作物と何ら関係のない一民間企業に認め、その使用を独占させることは相当ではないこと、E原告ないしその関連会社と本件遺産相続人との間の書簡による合意内容などに照らすと、原告による本件商標の出願の経緯には社会的相当性を欠く面があったことは否定できないことなどを総合考慮すると、本件商標は、商標法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当し、商標登録を受けることができないものであるというべきである。
(4) 原告の主張に対する判断
 以上判断したとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がないものということができ、審決取消事由に関する原告の主張は、いずれも失当であるか、又はことさら判断する必要がないものであるが、原告の主張のうち以下の主張については、事案に鑑み、念のため、個別的に判断を加えることとする。
ア 著名な著作物の題号等の商標登録の許容性について
 原告は、@本件著作物と同様な構成の商標も被告、AGGLA、その他の企業によっていくつか登録されていること、A世界的に著名な著作物の題号、主人公名、そのゆかりの地名等から構成される商標がこれまでに多数登録されてきていること、B他国の著名な文化遺産や自然資産についても、同様に多数登録されてきていることなどを挙げて、本件商標は、何人でも自由に登録商標として採択することができると主張する。
 確かに、原告の指摘するとおり、「Anne of Green Gables」又は「ANNE OF GREEN GABLES」の文字(標準文字)からなるものの中には、従来商標として登録されているものもあり、世界的に著名な著作物の題号、主人公名等や、他国の著名な文化遺産や自然資産の名称を含む商標にも登録されているものもある。
 しかしながら、当裁判所は、我が国の商標法がこれを禁ずる明文を欠いていることを前提に検討しているのであって、本件商標を構成する「Anne of Green Gables」がカナダ国の文化資産的性格を有する作品の原題であることから、ただちに、本件商標登録がカナダ国政府との間の国際信義に反すると解しているわけではない。上記判示から明らかなように、当裁判所は、本件著作物の著名の程度、当該国と我が国の関係、本件商標と同一の文字からなる商標のカナダ国における法的保護の状況、著作物の文化的な価値等を管理する団体の有無、著作者ないしその承継人との交渉の経緯、当該著作物と指定商品の種類との関係、その他一切の事情を総合して、事案ごとに判断すべきものであると解した上で、本件について商標法4条1項7号に該当するかどうかを判断しているものである。
 また、従前、他国の著名な著作物の題号について商標登録がされているとはいっても、交通通信手段が飛躍的な発展を遂げ、国際化、ボーダーレス化が急速に進歩している今日、国民の意識、取引の実情等も大きく変化を続けているのであるから、そうした急激な事情の変動は商標登録の許容性の判断にも当然に少なからず影響を及ぼすものであって、過去に商標登録された例が相当数あるからといって、必ずしも決定的な参考例になるものということはできない。

(中略)

 当裁判所は、前記判示のとおり、原告による本件著作物に関する本件商標登録の出願・登録は、本件著作物、原作者又は主人公の価値、名声、評判を損うおそれがあることについて、公益的な観点から推断したものであり、被告州による観光産業の保護育成の必要性の点は、その理由に用いていない。
2 結論
 本件商標登録が商標法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当して無効とされるべきであるとした審決の判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。

  
本件商標登録
指定商品:  第9類「眼鏡,レコード,メトロノーム,スロットマシン,ウエイトベルト,ウエットスーツ,浮袋,エアタンク,水泳用浮き板,レギュレーター,家庭用テレビゲームおもちゃ」及び第14類「時計,身飾品,宝玉及びその原石並びにその模造品,貴金属製のがま口及び財布,貴金属製コンパクト」
出願日  : 平成12年6月20日
設定登録日: 平成13年4月27日
登録番号 : 第4470684号





「極真空手 KYOKUSHIN KARATE」商標登録無効事件

<商標法第4条第1項第7号に該当。>

事件番号  平成17年(行ケ)第10033号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成18年12月26日
裁判所名  知的財産高等裁判所 
判決データ:  TM-H17-Gke-10033.pdf

 本件商標の登録は、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないというべきであるから、商標法4条1項7号に違反してされたものであるとして、同法46条1項の規定により、その登録を無効とすべきであるとした審決の結論に誤りはなく、原告主張の取消事由2は理由がない。






チョコレート菓子(商品名「シーシェルバー」)事件(立体商標)

事件番号  平成19年(行ケ)第10293号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成20年06月30日
裁判所名  知的財産高等裁判所 
判決データ:  TM-H19-Gke-10293.pdf

オ 被告は、商品等の形状は、基本的に識別標章たり得ないし、商品等の形状には選択し得る形状に一定の幅があるのが通常であり、商品等の製造者・販売者や需要者は、そのような認識を当然に持っているのであるから、商品等の形状そのものからなる立体商標は、それが商品等の形状として一般に採用し得る範囲内のものと認識される限りにおいては、多少特異なものであっても、選択し得る形状の一つと理解されるにとどまるのであって、商品等の機能又は美感と関係のない特異な形状以外は、「商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に当たると主張する。
 確かに、商品の形状は、第一次的には、当該商品自体の持つ機能を効果的に発揮させたり、あるいはその美感を追求する等の目的で選択されるものであり、取引者・需要者もそのようなものとして認識するであろうことは被告の主張するとおりである。
 しかしながら、商品の形状は、取引者・需要者の視覚に直接訴えるものであり、需要者は、多くの場合、まず当該商品の形状を見て商品の選択・選別を開始することは経験則上明らかであるところ、商品の製造・販売業者においては、当該商品の機能等から生ずる制約の中で、美感等の向上を図ると同時に、その採用した形状を手掛かりとして当該商品の次回以降の購入等に結び付ける自他商品識別力を有するものとするべく商品形体に創意工夫を凝らしていることもまた周知のところであるから、一概に商品の形体であるがゆえに自他商品識別力がないと断ずることは相当とはいえないものである。これをチョコレート菓子についてみると、前記のとおり、チョコレート菓子の選別においては、多くの場合、第一次的には味が最も重要な要素であるといえるが、同時にその嗜好品としての特質からチョコレート菓子自体の形体も外形からチョコレート菓子の識別を可能ならしめるものとして取引者・需要者の注目を引くものと見ることができるのであり、このことはチョコレート菓子の形体に板状タイプ、立体形状タイプ、立体装飾タイプなどがあり、各製造業者が様々な立体模様等を採用して独自色を創出しようとしていることからも容易に窺うことができるところであり、ここにおいてはチョコレート菓子の外形、すなわち形体が、美感等の向上という第一次的要求に加え、再度の需要喚起を図るための自他商品識別力の付与の観点をも併せ持っているものと容易に推認することができるのである。このように見てくると、嗜好品であるチョコレート菓子の需要者は、自己が購入したチョコレート菓子の味とその形体が他の同種商品と識別可能な程度に特徴的であればその特徴的形体を一つの手掛かりにし、次回以降の購入時における商品選択の基準とすることができるし、現にそのようにしているものと推認することができるのであるから、その立体形状が「選択し得る形状の一つと理解される限り識別力はない」とする被告の主張は、取引の実情を捨象する過度に抽象化した議論であり、にわかに採用し難いところである。
 また、被告は、本願商標はチョコレート菓子の形体において広く採用された表示方法の寄せ集めに過ぎないから、本願商標に接した需要者は、商品の単なる装飾としか認識できないと主張するところ、確かに、本願商標に係る標章の表現手法自体は既に述べたように新規なものとは言い難いことは被告の指摘するとおりであるが、本願商標に係る標章は、4種の図柄の選択・組合せ及び配列の順序並びにマーブル色の色彩が結合している点において新規であり、個性的であるから、この程度の識別力があれば、本願商標が付されたシーシェルバーを食した需要者である一般消費者はその味と新規な標章により次回の購入の可否を検討する際において他の同種商品と識別することが可能であるものと推認することができるから、被告の上記主張も採用することはできない。
 なお、被告は、商品等の機能又は美感と関係のない特異な形状に限って自他商品識別力を有するものとして、商標法3条1項3号の商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標ということはできないとするが、商品の本来的価値が機能や美感にあることに照らすと、このような基準を満たし得る商品形状を想定することは殆ど困難であり、このような考え方は立体商標制度の存在意義を余りにも限定するものであって妥当とは言い難い。
(3) 以上によれば、本願商標が商標法3条1項3号所定の商標に該当するとは認め難いことに帰する



    本願商標
    国際登録第803104号





「人と地球」商標権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件

事件番号  平成20年(ワ)第2149号
事件名  商標権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件
裁判年月日  平成20年06月10日
裁判所名  大阪地方裁判所 
判決データ:  TM-H20-wa-2149.pdf

(4) そこで、被告が原告に対し被告商標権に基づき、原告標章の上記態様での使用の差止請求権を有するか否かについて検討する。
 被告が原告に対し上記差止請求権を有するというためには、被告商標の指定商品と同一又は類似の商品に被告商標と同一又は類似の商標を付し、あるいは、指定商品に関する広告に被告商品と同一の標章を付して展示するなどしたこと(商標法25条、2条3項、37条)について、被告に主張立証責任があるところ、被告は、法的なことはよくわからないので裁判所の判断に任せるとして、具体的な主張立証をしない。しかし、被告が被告商標権を有すること、原告が原告標章を上記使用態様で使用しているという事実関係は、本件口頭弁論に顕れているので、被告がこれを援用していないとしても、上記事実を証拠に基づいて認定することは何ら妨げられないというべきである。
 そこで、まず、指定商品の同一性又は類似性について検討する。被告商標(ア)は第16類「印刷物(書籍を除く)」を指定商品とし、被告商標(イ)は第16類「雑誌、書籍、絵はがき、カレンダー」を指定商品とするものである。他方、原告標章は、本件リサイクルボックス及び本件一面広告に表示されているものである。本件リサイクルボックスは、第16類「印刷物(書籍を除く)」や「雑誌、書籍、絵はがき、カレンダー」に当たらず、これに類似する商品でもないというべきである。また、証拠(甲5)及び弁論の全趣旨によれば、本件一面広告は、リサイクルボックスを使用した使用済みプリンター用インクカートリッジの再生を一般消費者に呼びかけることを目的として新聞に掲載されたものであって、原告の特定の商品に原告標章が付されて広告宣伝がなされたものではない。したがって、上記いずれの使用態様においても、原告標章が第16類「印刷物(書籍を除く)」「雑誌、書籍、絵はがき、カレンダー」と同一又は類似の商品に付されたものとはいえない。もっとも、本件リサイクルボックスを「印刷物」又はこれに類似する商品と見得る余地が全くないわけではない。そこで、以下、原告標章と被告商標との類否についても判断する。
 被告商標(ア)は、標準文字で「人と地球HITO TO CHIKYU」と書してなるものであり、被告商標(イ)は、「人と地球(SP)HITO(SP)TO(SP)CHIKYU」と書してなるものであって、いずれも「ひととちきゅう」との称呼を生じ「人、 と地球」すなわち、人間と地球との共生関係というような観念を生じさせるものである。
 他方、原告標章は、木の幹を模した正方形状の略四角形の右上部に木の幹から右上に伸びるように木の枝と葉を模した絵柄が描かれ、木の幹部分に横書き手書き状の白抜き文字で2行にわたり「eco」「rica」が縦に並列して記載され、その上部に「人と地球に貢献します。」と丸ゴシック体で小さく横書きで書されていることが認められる。原告標章の上記使用態様によれば、被告標章の文字列を含む「人と地球に貢献します。」なる部分は、原告標章の中でも比較的小さく表示され、しかも、環境保護のためにリサイクルを推進する原告の立場を表現する記述的表示というべきものであって、それ自体は商品主体の識別力が高いものとはいえない。これに対し、原告の社名でもある「eco」「rica」と2行にわたり白抜きで比較的大きく表示された木の幹の部分の商品主体の識別力が相対的に高いと認められ、むしろこの部分が原告標章の要部であると認められる。したがって、原告標章は、その要部である「えこりか」との称呼を生じるものであり、被告商標とは、外観、称呼、観念とも異なり、被告商標と類似するということはできない。
(5) そうすると、原告標章を上記使用態様で使用することは、被告商標権を侵害するものではないというべきである。したがって、被告は原告に対し、被告商標権に基づく原告標章の上記使用を差し止める権利を有しないことが明らかである。被告のその余の主張を検討しても、上記判断を左右するものではない。





審決取消請求事件(商標法第51条1項の不正使用取消)

事件番号  昭和58年(行ツ)第31号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  昭和61年04月22日
裁判所名  最高裁判所第三小法廷  
判決データ:  TM-S58-Gtsu-31.pdf

 商標法五一条一項の規定は、本来商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような事態を防止し、かつ、そのような場合に当該商標権者に制裁を課す趣旨のものであり、需要者一般を保護するという公益的性格を有するものであることはいうまでもない。しかしながら、商標法は、出所の混同については、これを商標の不登録事由としているが(同法四条一項一五号)、商標登録が右規定に違反してされた場合の無効審判の請求に五年の除斥期間を設け(同法四七条)、また、更新登録の際の登録拒絶事由にしていない(同法一九条二項ただし書、二一条)のであって、出所の混同を生ずるような商標が一旦登録され、その状態が五年以上継続すると、登録を受けた商標権者の利益の方を保護すべきものとし、出所の混同の被害者である営業者や一般公衆の利益を後退させているのである。このような出所の混同を生ずる商標に関する商標法の規定の趣旨をも勘案すると、上告人による本件各使用商標の使用が被上告人の業務に係る商品である洋菓子と混同を生ずるもので、同法五一条一項所定の要件を充たしているとしても、上告人が主張するとおり、本件各使用商標が本件和解において被上告人が上告人にその使用を認めたもの、換言すれば、被上告人がその登録商標に基づく禁止権を放棄したものに当たり、しかも、本件和解において、被上告人が上告人に対し、上告人が出願した本件登録商標に対する登録異議の申立を取り下げてそれが登録されることを認め、その対価として被上告人が和解金として上告人から一二〇万円を受領し、その結果、上告人が本件各使用商標を使用継続したという事実が認められるとすれば、被上告人は、たとえ公益的性格を有する同項に基づいてであっても、自ら本件登録商標の登録を取り消すことについて審判を請求することは、信義則に反するものとして許されないものといわなければならない。
 そうすると、原判決の前記違法は、判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、以上と同旨をいう論旨は理由があり、原判決は、破棄を免れない。そして、本件についてさらに審理を尽くす必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。
 よって、その余の上告理由に対する判断を省略し、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条に従い、裁判官伊藤正己の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官伊藤正己の反対意見は、次のとおりである。
 私は、商標法五一条一項の規定(以下「同規定」という。)に基づく被上告人の審判請求を排斥した特許庁の審決が違法であるとして、被上告人の本訴審決取消の請求を認容した原審の判断は、これを是認することができ、本件上告を棄却すべきものであると考える。
 多数意見は、被上告人が昭和三〇年四月二三日に上告人との間で本件和解を成立させ、本件各使用商標の使用を上告人に対して認めたとすれば、被上告人自ら同規定に基づいて上告人のもつ本件登録商標の登録を取り消すことについて審判を請求することは信義則に反して許されないものであると判示する。
 私の見解によれば、商品の出所混同によって利益を侵害された営業者の利益は、本来、商標法や不正競争防止法に基づく使用差止め、損害賠償請求などの手段によって法的に保護されるべきものであり、このような私益救済のための制度については、和解により商品の出所混同を容認したからには、右の制度に基づいて救済を求めることが信義則、禁反言の原則によって抑止されることはやむをえないと解される。したがって、本件各使用商標が本件和解において被上告人が上告人にその使用を認めたものに当たり、しかも、本件和解において、被上告人が上告人に対し、上告人が出願した本件登録商標に対する登録異議の申立を取り下げてそれが登録されることを認め、その対価として被上告人が和解金として上告人から一二〇万円を受領し、その結果、上告人が本件各使用商標を長期間使用継続したという事実が認められるとすれば、被上告人が商標法や不正競争防止法に基づきその使用差止めの救済を求めることは信義則に反するといわねばならない(本件各使用商標の使用の差止めが認められなかった最高裁昭和五五年(オ)第五四〇号同五七年一二月一〇日第二小法廷判決参照)。しかし、同規定は、一般公衆である需要者の保護を目的とするものであり、本件についていえば、上告人の製造する商品について本件各使用商標を使用することによって被上告人の製造する同種の商品との混同が需要者一般に生ずることを防止して一般公衆を保護しようとするものであって、これによって被上告人の私的な利益も保護されるとしても、それは、同規定の本来の趣旨とするところではなく、むしろ附随的な効果にすぎない。同規定による商標登録の取消は、「何人も」請求することができるとされていることもこのことを示している。したがって、被害を受けた営業者のみでなく、その他の者も一般公衆の利益をまもるために同規定の定める請求をすることができるのであるから、本件の場合においても、被上告人以外の者はそれを請求することができるのであり、そのときには被上告人がかつて上告人との間でした本件和解が同規定による取消の請求を妨げるものとはならないことは明らかである。そうであるとすれば、被上告人が同規定に基づいて上告人の本件登録商標の登録取消の審判を求めている本件において、本件和解の存在することをもって被上告人の右請求が信義則に反するとして直ちにそれが許されないというのは、同視定のもついわば需要者一般を保護するという公益性を軽視するものといわなければならない。
 以上のようにみると、同規定に基づく被上告人の本件登録商標の登録取消の審判請求に関しては、本件和解が上告人の本件登録商標の不当使用の違法性を阻却する事由となるものではないとした原審の判断は、正当として肯認するに足りると考えられる。そして、被上告人の請求が認められるかどうかは、上告人による本件各使用商標の使用が同視定に定める要件をみたすかどうかにかかることになる。原審の適法に確定した事実関係、すなわち、本件各使用商標が本件登録商標に類似する商標であること、洋菓子について本件各使用商標を使用することによって被上告人の業務にかかる商品の洋菓子と混同を生ずること、上告人はこの混同を生ずることの認識があり、同規定にいう故意の存することを前提として、同規定に基づく被上告人の審判請求を排斥した特許庁の審決が違法であるとして、被上告人の本訴審決取消の請求を認容した原審の判断は、これを是認することができると考えられるから、原判決を破棄する理由は存しないというべきである。

事件番号  昭和55年(行ケ)第170号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  昭和57年12月23日
裁判所名  東京高等裁判所  
判決データ:  TM-S55-Gke-170.pdf  TM-S55-Gke-170-1.pdf

一 特許庁における手続の経緯
 被告は、登録第四六七四八四号商標(以下、「本件商標」という。)の商標権者である。本件商標は、別紙第一のとおり、「株式会社ユーハイムコンフエクト」の文字を縦書きにしてなり、旧第四三類「菓子及び麺麭の類」を指定商品として昭和二六年一一月三〇日登録出願、昭和三〇年六月二九日設定登録され、昭和五〇年八月一日商標権存続期間更新の登録がされたものであるところ、原告は被告を被請求人として、昭和四二年一二月一二日、商標法第五一条に基づき被告が商品「洋菓子」について使用する別紙第三の(1)ないし(4)に示すとおりの構成の各商標(以下、右(1)を「本件使用(1)商標」といい、(2)ないし(4)もこれに準ずる。)は本件商標に類似するものであり、被告がこれを使用することは原告の業務に係る商品(洋菓子)と混同を生ずるものであることを理由として、本件商標の登録取消の審判を請求し、特許庁昭和四二年審判第九三一九号事件として審理されたが、昭和五五年四月二二日右審判の請求は成り立たない旨の審決があり、その審決の謄本は同年五月二一日原告に送達された。
二 本件審決の理由の要点
 本件商標及び本件各使用商標は、前項記載のとおりである。
 請求人(原告)は、被請求人(被告)が商品「洋菓子」について本件各使用商標を使用することは、本件商標を変更して使用するものであって、請求人の業務に係る商品(洋菓子)と混同を生じさせるものであると主張する。
 ところで、請求人、被請求人間に、昭和三〇年四月二三日神戸地方裁判所において「ユーハイムコンフエクト」なる商標の使用についての裁判上の和解が成立したことは、請求人、被請求人間に争いがなく、被請求人は本件各使用商標の使用は、右和解に基づくものであって、本件商標を変更して使用しているものではないと主張し、請求人は被請求人の本件各使用商標の使用は、右和解に基づいて使用しているものではなく、本件商標を変更して使用しているものであると争っている。そこで考えるに、神戸地方裁判所及び大阪高等裁判所の判決は本件各使用商標は、「コンフエクト」の文字が「ユーハイム」の文字に比して多少小さく表わされているとしても、その使用は前記和解の条項の範囲を逸脱するものではないとしている。そうすると、被請求人が使用する本件各使用商標は前記和解に基づく使用であって、本件商標を故意に変更して使用しているものということはできない。
 したがって、本件商標は商標法第五一条の規定により取消されるべきものではない。

(判旨)
 被告は本件各使用商標を原被告間の裁判上の和解に基づいて使用しているものであって、本件商標を故意に変更して使用しているものではないとして、本件商標の登録は取消されるべきものではないとした審決は、その判断を誤っているものというべきである。

 →上告





審決取消請求事件(商標法第53条1項の不正使用取消)

事件番号  平成19年(行ケ)第10352号等
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成21年03月26日
裁判所名  知的財産高等裁判所 
判決データ:  TM-H19-Gke-10352.pdf

第2 事案の概要
 本件は、被告が、原告宮田工業株式会社(以下「原告宮田工業」という。)の下記1記載の商標(以下「本件商標」といい、本件商標に係る権利を「本件商標権」という。)について、同原告から通常使用権ないし専用使用権の許諾を得てこれを使用する原告株式会社ハトプラ(以下「原告ハトプラ」という。)の本件商標使用行為は、被告の商品と誤認混同を生じさせるとして商標法53条1項に基づき本件商標登録の取消審判を請求したのに対し、原告ハトプラが本件商標の専用使用権者として上記取消審判請求手続に参加したところ、特許庁は、本件商標の登録を取り消す旨の審決をしたため、原告らがその取消しを求める事案である。
1 本件商標
 登録番号  第2423435号
 出願日  昭和63年7月7日
 登録日  平成4年6月30日
 更新登録日  平成14年7月9日
 指定商品  第12類「輸送用機械器具、その部品及び附属品」(平成15年10月1日書換登録)
 商標の構成  「ブライド」の文字と「BRIDE」の文字を上下二段に横書きしてなる商標
2 専用使用権等の設定
 権利者原告ハトプラ
 受付年月日平成18年1月12日
 登録年月日平成18年1月25日
 範囲地域日本国内全域
 期間契約締結後5年間(平成22年11月30日迄)
 内容自動車用座席及び座席部品
 なお、原告宮田工業は、原告ハトプラに対し、本件商標権につき、平成15年7月1日から3年間の期間付きで「自動車用座席及び座席部品」について通常使用権を許諾した。
3 被告による取消審判請求
 請求日  平成17年11月14日(取消2005−31371号事件)
 原告ハトプラに対する参加許可  平成18年10月17日
 審決  平成19年9月19日
 審決謄本送達日  平成19年10月1日(原告らに対し)
第3 審決の理由の要点
 審決は、要旨、原告ハトプラによる本件商標の使用は、商標法53条1項の「他人の業務に係る商品と混同を生ずるもの」に該当するとし、また、原告宮田工業に同項ただし書の事由を認めることはできないとして本件商標に係る商標登録を取り消す旨の審決をした。

(中略)

 以上のような事実関係に照らすならば、原告宮田工業は原告ハトプラによる本件使用商標の使用行為により、被告の自動車用シート等の商品と原告ハトプラの同種商品との間に混同が生ずるおそれがあることを認識していたか、仮に認識していなかったとしても相当な注意を怠っていたものといわざるを得ない。
 原告宮田工業は、被告標章の使用が本件商標権を侵害するとの前提に立ち種々主張するが、その前提が失当であることは既に説示したとおりであるからその主張を採用することはできない。
 よって、取消事由4も理由がない。
3 以上によれば、審決は正当であり、他にこれを違法とする事由もないから、本件各請求はいずれも理由がないものとしてこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。


関連事件判決:  平成19年(行ケ)第10353号





結合商標における商標の類否(「LYRATRATAKARAZUKA」商標事件)

事件番号  昭和37年(オ)第953号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  昭和38年12月05日
法廷名  最高裁判所第一小法廷
判決データ:  TM-S37-o-953.pdf

 商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、みだりに、商標構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判定するがごときことが許されないのは、正に、所論のとおりである。しかし、簡易、迅速をたっとぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、常に必らずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され、一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところである(昭和三六年六月二三日第二小法廷判決、民集一五巻六号一六八九頁参照)。しかしてこの場合、一つの称呼、観念が他人の商標の称呼、観念と同一または類似であるとはいえないとしても、他の称呼、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である。
 いま本件についてこれをみるのに、本願商標は、第四類石鹸を指定商品とするものであるが、古代ギリシャで用いられていたというリラと称する抱琴の図形と「宝塚」なる文字との結合からなり、しかも、これに「リラタカラズヵ」、「LYRATRATAKARAZUKA」の文字が添記されているのである。従つて、この商標よりリラ宝塚印なる称呼、観念の生ずることは明らかであり、上告人会社の本願商標作成の企図もここにあったものと推認するのに十分である。しかし、原判決の確定した事実によれば、右図形が古代ギリシャの抱琴でリラという名称を有するものであることは、本願商標の指定商品たる石鹸の取引に関係する一般人の間に広く知れわたっているわけではなく、これに対し、宝塚はそれ自体明確な意味をもち、一般人に親しみ深いものであり、しかも、右「宝塚」なる文字は本願商標のほぼ中央部に普通の活字で極めて読みとり易く表示され、独立して看る者の注意をひくように構成されている、というのである。されば、かかる事実関係の下において、原判決が右リラの図形と「宝塚」なる文字とはそれらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではないから、本願商標よりはリラ宝塚印の称呼、観念のほかに、単に宝塚印なる称呼、観念も生ずることが少なくないと認めて、ひとしくその指定商品を第四類石鹸とする引用商標たる「宝塚」と称呼、観念において類似すると判断したことは、正当であって、所論の違法はない。





「BALMAIN」商標拒絶審決取消事件

事件番号  平成17年(行ケ)第10103号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成17年04月19日
裁判所名  知的財産高等裁判所
判決データ:  TM-H17-Gke-10103.pdf

1 特許庁における手続の経緯
 原告は、平成11年3月24日、別添審決謄本別掲(1)のとおりの構成(飾り文字風の欧文字で「BALMAIN」と横書きに書したもの)よりなり、指定商品を、別表第6類、第9類、第14類、第16類、第18類、第20類、第21類、第23類、第24類、第25類、第26類、第27類、第28類、第30類、第33類及び第34類に属する願書記載のとおりの商品とする商標(以下「本願商標」という。)について、商標登録出願(商願平11−25229号)をし、その後、平成12年2月29日及び同年7月17日付け手続補正書により、指定商品を、第24類「織物、メリヤス生地、フェルト及び不織布、オイルクロス、ゴム引防水布、ビニルクロス、ラバークロス、レザークロス、ろ過布、布製身の回り品、織物製テーブルナプキン、ふきん、かや、敷布、布団、布団カバー、布団側、まくらカバー、毛布、織物製いすカバー、織物製壁掛け、織物製ブラインド、カーテン、テーブル掛け、どん帳、シャワーカーテン、織物製トイレットシートカバー、布製ラベル、ビリヤードクロス、のぼり及び旗(紙製のものを除く。)」及び第25類「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、仮装用衣服、運動用特殊衣服、運動用特殊靴」に変更したものである。
 原告は、平成12年4月14日、上記商標登録出願につき拒絶の査定を受けたことから、同年7月17日、これに対する不服の審判の請求をした。特許庁は、同請求を不服2000−13143号事件として審理した上、平成16年6月2日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同月21日、原告に送達された。
2 審決の理由
 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本願商標と、@「バルマン」の片仮名文字を横書きしてなり、旧別表第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品とする登録第977769号商標(昭和43年6月4日登録出願、昭和47年8月26日設定登録、平成14年7月9日更新登録、以下「引用商標1」という。)、A別添審決謄本別掲(2)のとおりの構成(注、上段に筆記体風の「Valman」の欧文字を配し、下段に筆文字風の「ばるまん」の平仮名文字を配したもの)よりなり、旧別表第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品とする登録第1346057号商標(昭和49年8月7日登録出願、昭和53年9月29日設定登録、平成10年4月28日更新登録、以下「引用商標2」という。)及びB別添審決謄本別掲(3)のとおりの構成(注、上段に丸ゴシック体の「mini−VALMAN」の変形の欧文字を配し、下段に丸ゴシック体の「ミニバルマン」の片仮名文字を配したもの)よりなり、旧別表第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品とする登録第1879415号商標(昭和59年2月8日登録出願、昭和61年7月30日設定登録、平成8年11月28日更新登録、以下「引用商標3」という。)とは、「バルマン」の称呼を共通にする類似の商標といわざるを得ず、また、本願商標の指定商品中、別表第24類「布製身の回り品、かや、敷布、布団、布団カバー、布団側、まくらカバー、毛布」及び第25類「被服」は、引用商標1〜3の指定商品と同一又は類似の商品であるから、本願商標は、商標法4条1項11号に該当するとした。

(中略)

第5 当裁判所の判断
1 取消事由2(商標の類否判断の誤り(2))について
(1) 審決は、本願商標及び引用商標1〜3からは、いずれも「バルマン」の称呼が生じると認定した上、「本願商標と引用各商標とは、『バルマン』の称呼を共通にする類似の商標といわざるを得ない」(審決謄本3頁第2段落)と判断した。
 これに対し、原告は、商標の類否の判断基準に関する昭和43年最判を引用した上、確かに、取引の実情を考慮した場合、本願商標からは「バルマン」の称呼が生じるが、原告、原告の略称及び本願商標が周知であることその他の取引の実情を考慮して、総合的かつ全体的な考察をすれば、本願商標と引用商標1〜3とは、同一又は類似の商品に使用しても、商品の出所について誤認混同を来すおそれはなく、両商標は非類似の商標というべきであるとして、審決の上記判断は誤りである旨主張する。
(2) そこで、まず、原告主張に係る本願商標等の周知性について検討する。
ア 当事者間に争いのない事実、証拠(甲6〜17、35〜102)及び弁論の全趣旨を総合すれば、本願商標等の周知性に関する事情として、以下の事実を認めることができる。
(ア) 原告「PIERRE BALMAIN」社は、我が国はもとより、世界的に著名なフランスのオートクチュール・メゾンである。
(イ) 原告の創業者であるファッションデザイナーのピエール・バルマンは、1945年(昭和20年)、フランスのパリにおいて、自らオートクチュール・ハウスを設立、その後、ヨーロッパを拠点にアメリカなどで活躍した。同人の手掛けたエレガントなデザインは、「ニュー・フレンチスタイル」などと呼ばれて高い評価を受け、そのブランドは急速に国際派ブランドに成長した。1982年(昭和57年)にピエール・バルマンが死亡した後は、その後継者がバルマン風のエレガンスを時代に合わせて再現してきた(甲37の3枚目、甲40の2枚目、甲62の2枚目)。
(ウ) 原告は、遅くとも、後記(ク)の@及びFの商標登録出願をした昭和48年1月8日を皮切りにして我が国に進出し、以後、現在に至るまで30年以上にわたり、我が国において被服等の商品に係る事業を展開してきた(甲6、12、弁論の全趣旨)。
(エ) 現在、原告は、伊藤忠ファッションシステム株式会社をメインライセンシーとし、同社を経由して、別表第25類及び第24類の商品を含む多数の商品について、それぞれの業界で名の通った多くの企業をサブライセンシーとして有しており、当該サブライセンシーらは、日本全国において、別表第25類の衣料品、ベルト、靴を含む多種の商品について、原告に係る「BALMAIN」ブランドの商品を製造販売している。

(中略)

(3) 以上を前提に、本願商標と引用商標1〜3との類否を検討する。
ア 商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生じるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかも、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である。その際、商品の外観、観念又は称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、したがって、上記三点のうち、その一つにおいて類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によって、何ら商品の出所に誤認混同を生じるおそれが認め難いものについては、これを類似商標と解すべきではない(昭和43年最判参照)。
イ これを本件について見ると、確かに、取引の実情を考慮した場合、本願商標から「バルマン」の称呼が生じることは、原告も自認するとおりであり、本願商標の当該称呼と引用商標1〜3の称呼(ただし、引用商標3については、その要部から生じる称呼)とは共通するものと認められる。
 しかしながら、他方、本願商標と引用商標1〜3とが外観において相違することは、当事者間に争いがない。
 また、上記(2)イのとおり、遅くとも審決日までには、「BALMAIN」ないし「バルマン」の表示は、著名な原告「PIERRE BALMAIN」社に係る「BALMAIN」ブランドを示すものとして、本願商標及び引用商標1〜3に係る取引者、需要者の間において、一般に広く知られるようになっていたものと認められるから、本願商標に接した取引者、需要者は、仮に本願商標自体を知らなくとも、本願商標から、周知の上記「BALMAIN」ブランドを想起するものというべきであり、これに対し、引用商標1〜3から特定の観念が生じないことは当事者間に争いがないから、本願商標と引用商標1〜3とは、観念において著しく相違するものと認めるのが相当である。
ウ 以上のとおり、本願商標と引用商標1〜3とが、外観において相違し、観念において著しく相違することに加え、取引の実情として、本願商標の指定商品の需要者が、自ら商品を手に取り、ブランド、デザイン、色、サイズ、素材、価格等を確かめて、商品を購入するか否かを決めること、及び、本願商標の指定商品の取引者が、商品の品番により取引をすることについて、当事者間に争いがないことをも考え併せれば、本願商標と引用商標1〜3とが称呼において共通するとしても、本願商標及び引用商標1〜3に係る商品の取引者、需要者は、取引に当たり、周知の上記「BALMAIN」ブランドを想起させる本願商標が付された商品と、そのような観念を生じさせない引用商標1〜3が付された商品とを容易に区別することができ、両者の出所を誤認混同するような事態は考え難いというほかはない。
 そうすると、両商標を同一又は類似の商品に使用した場合に、商品の出所につき誤認混同を生じるおそれは認め難いから、本願商標と引用商標1〜3とは類似商標ではないというべきである。
エ なお、被告は、本願商標を構成する欧文字は、普通に用いられる書体の域を出ない程度のものであって、その文字の特異性から、外観上、特に印象付けられることはなく、このことは、引用商標1〜3の構成文字についても同様であるから、両商標は、外観上、格段の違いがあるというものではない旨主張する。しかしながら、仮にそうであるとしても、両商標が外観において相違することは当事者間に争いがない上、両商標が観念において著しく相違することその他取引の実情等によって、商品の出所に誤認混同を生じるおそれを認め難いことは上記ウのとおりであるから、この点に関する被告の主張は採用の限りではない。
 また、被告は、本願商標の指定商品、特に「被服」の商品分野で、主たる需要者である一般的な消費者の商品選択において、型、デザイン、色、サイズ等のほか、商標(ブランド)もその基準となることが一般であることは公知の事実であり、そうすると、需要者が実際に商品を手に取って購入するか否かを決定し、取引者が品番により取引をするとしても、それゆえに、主たる需要者である一般的な消費者にとって、商品の出所につき誤認混同を生じるおそれがないということはできないとも主張する。しかしながら、本件においては、上記ウのとおり、両商標が観念において著しく相違することその他取引の実情等によって、需要者は、取引に当たり、周知の上記「BALMAIN」ブランドを想起させる本願商標が付された商品と、そのような観念を生じさせない引用商標1〜3が付された商品とを容易に区別することができるというべきであるから、被告主張の点は、上記ウの判断を左右するものではない。
(4) 以上によれば、本願商標と引用商標1〜3とが類似の商標であるとした、審決の上記(1)の判断は誤りというほかはなく、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、原告の取消事由2の主張は理由がある。
2 以上のとおり、原告主張の取消事由2は理由があるから、その余の点について判断するまでもなく、審決は、違法として取消しを免れない。

   
   商標登録第4889881号





「ワイキキ」商標事件(商標法第3条第1項第3号に該当)

<指定商品: 石鹸、歯磨き、化粧品及び香水>

事件番号  昭和53年(行ツ)第129号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  昭和54年04月10日
裁判所名  最高裁判所第三小法廷 
判決データ:  TM-S53-Gtsu-129.pdf

 商標法三条一項三号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは、このような商標は、商品の産地、販売地その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解すべきである。叙上のような商標を商品について使用すると、その商品の産地、販売地その他の特性について誤認を生じさせることが少なくないとしても、このことは、このような商標が商標法四条一項一六号に該当するかどうかの問題であって、同法三条一項三号にかかわる問題ではないといわなければならない。そうすると、右三号にいう「その商品の産地、販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」の意義を、所論のように、その商品の産地、販売地として広く知られたものを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであって、これを商品に使用した場合その産地、販売地につき誤認を生じさせるおそれのある商標に限るもの、と解さなければならない理由はない。
 原審は、本件商標が、その指定商品との関係上、その商品の産地、販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり、かつ、これをその指定商品について使用するとその商品の産地、販売地につき誤認を生ずるおそれのある商標であって、商標法三条一項三号及び四条一項一六号に掲げる商標に該当する旨を認定判断しており、この認定判断は、原判決挙示の証拠関係及び説示に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。





「AfternoonTea」商標事件(商標法第4条第1項第16号に該当しない)

事件番号  平成14年(行ケ)第596号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成15年06月04日
裁判所名  知的財産高等裁判所 
判決データ:  TM-H14-Gke-596.pdf

 被告は、本願商品には「ビール」が含まれているから、本願商品等の一般的需要者である運転者等が「ビール」を「茶」と誤認して使用した場合に、混乱や悲惨な事態が生じることは容易に想起できると主張する。
 しかし、原告が、アフタヌーンティー店舗の周知なハウスマークとなっている本願商標のみを付して、他にアルコール飲料であること明示せずにビールを販売するものとは想定し難い上、前記認定のとおり、アフタヌーンティー店舗では、長年にわたり、本願商標を掲載したメニューを使用して紅茶以外にコーヒー・ジュースやビール等の飲み物を提供してきた実績があり、本願商標を付してコーヒー・ココアなどの飲み物を販売してきた実績もあるが、これらの飲食物の提供及び販売形態をとることにより、注文者・需要者が品質を誤認するような混乱は生じていないものと推認され、しかも、具体的販売形態として、一般の需要者・消費者が、アフタヌーンティー店舗以外の店舗及び自動販売機等によって本願商標を付した各種商品を購入することは困難な状況にあることを考慮すると、被告の主張するような混乱や悲惨な事態が生じるものとは到底考えられず、上記主張は採用できない。
 4 結論
 以上のとおり、本件審決は、本願商標が品質の誤認を生じると誤った判断をしたものであり、この誤りがその結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、本件審決は取消しを免れない。


  

 本件商標
 指定商品
 第32類 「ビール,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料」
 商標登録第4699286号





「AfternoonTea」商標事件(商標法第51条第1項の不正使用取消)

<商標法第51条第1項の不正使用による取消を認めなかった特許庁審決を取り消した事例。>

事件番号  平成9年(行ケ)第153号
事件名  審決取消事件
裁判年月日  平成10年06月30日
裁判所名  東京高等裁判所  
判決データ:  TM-H09-Gke-153.pdf  TM-H09-Gke-153-1.pdf

 そして、前記認定のとおり、請求人使用商標に形態が極めて近似した被請求人使用商標(B)は、請求人使用商標に依拠して考案されたものといわざるをえない。
 そうすると、被告の担当者は、被請求人使用商標(B)を被告の販売する被服に使用すれば、その商品が原告又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品ではないかとその出所について誤認混同されるおそれがあることを認識していたものと認められる。
B 被告は、平成5年3月から、若い女性向けのブラウス、スカート、かばん類等の商品につき、被請求人使用商標(B)を使用して積極的に展開するようになった経緯につき種々主張するが、なぜ請求人使用商標に極めて近似する被請求人使用商標(B)を使用するに至ったかについては、首肯するに足りる説明をせず、単に請求人使用商標の書体が格別のものではない等と主張しているにすぎないところ、前記説示のとおり、被請求人使用商標(B)は形態に特徴のある請求人使用商標と無関係に採用されたものとは到底認められないものであるから、被告主張の平成5年3月からの新しい商品展開の経緯は、上記認定を左右するものではなく、他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。
(4) 結論
 したがって、被請求人使用商標(B)の使用は、本件商標の変更使用とはいい得ないとの審決の判断、及び被告が、被請求人使用商標(B)を商品「被服」について使用したとしても、請求人使用商標との関係において、混同を生ずるおそれはないとの審決の判断は、いずれも誤りであり、しかも、被告には故意も認められるものであるから、原告主張の取消事由は、理由がある。





「ハイミー」商標事件(真正商品の再包装)

事件番号  昭和44年(あ)第2117号
事件名  商標法違反事件
裁判年月日  昭和46年07月20日
法廷名  最高裁判所第三小法廷
判決データ:  TM-S44-a-2117.pdf

 正当な権限がないのに指定商品の包装に登録商標を付したものを販売する目的で所持する場合、その中身が商標権者自身の製品でしかも新品であることは商標法三七条二号、七八条の罪の成立になんら影響を及ぼさないものであり、次に、特段の美観要素がなく、もっぱら、運搬用商品保護用であるとしても、商品を収容している容器としての段ボール箱は同法三七条二号にいう「商品の包装」にあたり、また、同条号の行為は必ずしも業としてなされることを必要としないものというべきである。したがって、これと同趣旨の原判断は、いずれも正当である。)





「マイクロクロス」商標事件(商標法3条1項3号又は6号、同法4条1項16号の無効理由無し)

事件番号  平成18年(ワ)第8621号
事件名  商標権侵害差止等請求事件
裁判年月日  平成19年12月13日
法廷名  大阪地方裁判所
判決データ:  TM-H18-wa-8621.pdf

第2 事案の概要
 本件は、後記商標権を有する原告株式会社ワンズハート(以下「原告ワンズハート」という。)及び同商標権について使用権の設定を受けたとする原告株式会社マイクロクロス社(以下「原告マイクロクロス社」という。)が、同商標権に係る登録商標と同一の標章を付した商品を販売する被告の行為が原告ワンズハートの有する上記商標権及び原告マイクロクロス社の有する上記使用権を侵害する行為であるとして、@上記商標権及び使用権に基づく上記被告の商品の販売等の差止め及び同商品等の廃棄、A商標権侵害及び使用権侵害の不法行為に基づく損害賠償としてそれぞれ5153万3000円及びこれに対する遅延損害金の支払を請求した事案である。

(判旨)
 そこで、あらためて本件において原告ワンズハートが受けるべき商標使用料相当額について検討するに、本件登録商標は、マイクロファイバー製の布という商品の内容そのものを示すものでないことは前記のとおりであるが、同商品について使用されて、商品の特徴とともに広告されるときには、商品の内容を暗示するものであることから記憶に残りやすく、また「マイクロ」と「クロス」の「クロ」が連続して小気味良い語感もある点で、商標として優れた面があるとはいえる。
 しかし、商標権は、特許権等とは異なり、商品に創作的価値を付与するものではなく、業務上の信用を化体し顧客吸引力を蓄積することによってその価値が高められていくものであるところ、本件登録商標は、その全体の使用実績も明らかでなく(原告マイクロクロス社の使用実績が窺われる甲第13ないし15号証の各号によれば、合計560個の販売にすぎない。)、また、宣伝広告も平成15年10月22日に類似標章である「MICRO CLOTH」を使用した商品について1回広告が掲載され、原告マイクロクロス社ホームページが開設されている(甲18ないし22)だけで、特段の周知性を有するとは認められない。この点について原告らは、他社の「マイクロクロス」商品についてのクレームが原告マイクロクロス社に寄せられる点を指摘するが、その数は不明であり、また他社製品を購入した者が原告マイクロクロス社にクレームを寄せてきた経緯も不明であるので、この点から本件登録商標に周知性があるともいえない。
 また、原告ワンズハートは、本件登録商標を独占使用しているわけではなく、原告マイクロクロス社を含めた3社に使用許諾をしている。原告らは、原告ワンズハートは安価な商品や低品質の商品には本件登録商標の使用を断ってきていると主張しているが、原告マイクロクロス社が使用する商品として示された甲第10号証記載の商品は、いわゆるノベルティ用の販促商品であって、少なくとも高価な商品に限定して使用していることは窺えない。
 以上を勘案すると、本件において原告ワンズハートが受けるべき商標使用料相当額は、被告の売上額の3パーセントとするのが相当である。

 本件登録商標: 第4692370号及び第4706725号
 標準文字:   マイクロクロス





地模様の自他商品識別力

<判決→識別力なし。>
事件番号  平成11年(行ケ)第79号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成12年08月10日
裁判所名  東京高等裁判所 
判決データ:  TM-H11-Gke-79.pdf

 本願商標は、青色の横縞風の模様を正方形に描いてなるところ、その模様が単に連続しているため、単なる地模様と認識され得るものであり、本願商標と酷似又は類似する柄を使用した請求人(原告)以外の者の製造販売に係るバッグ等の商品が認められることから、本願商標を指定商品に使用するときは、これに接する取引者、需要者は、単にその商品の型押し柄の一類型であると認識、理解するにすぎず、本願商標は、単に商品の品質(型押し柄)を表示し、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであり、商標法3条1項3号に該当すると認定判断した。

 指定商品: 第25類 「被服、ベルト、ポーチ付きベルト」


<判決→使用による識別力あり。>
事件番号  平成11年(行ケ)第80号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成12年08月10日
裁判所名  東京高等裁判所
判決データ:  TM-H11-Gke-80.pdf

審決の理由 
  (1) 本願商標は、青色の横縞風の模様を正方形に描いてなるところ、その模様が単に連続しているため、単なる地模様と認識され得るものであり、本願商標と酷似又は類似する柄を使用した請求人(原告)以外の者の製造販売に係るバッグ等の商品が認められることから、本願商標を指定商品に使用するときは、これに接する取引者、需要者は、単にその商品の型押し柄の一類型であると認識、理解するにすぎず、本願商標は、単に商品の品質(型押し柄)を表示し、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであり、商標法3条1項3号に該当すると認定判断し、
  (2) 請求人は、本願商標は同法3条2項の規定によって登録されるべきであると主張しているが、指定商品に本願商標が使用されているのは、いずれも素材として商品の表面全体にわたった自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない単なる地模様の使用であり、商標の使用とは認められないから、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるとは認められないと判断した。

原告主張の審決取消事由の要点
 審決は、本願商標は商標法3条1項3号に該当し登録することができない旨誤って認定判断し(取消事由1)、また、仮に、同号に該当するとしても、本願商標は、使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものであるから、同条2項に該当し、登録することができるものであり(取消事由2)、本件審判請求を成り立たないものとした審決は違法であるから、取り消されるべきである。

(判旨)
1 取消事由1について
 (1) 本願商標の構成及び本願商標に係る指定商品が第18類の「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」であることは争いがなく、甲第13号証によると、本願商標は、青色の濃淡によって、横方向の緩やかな波形が緊密に連続して構成され、全体として青色の横縞風の模様を正方形の枠内に描いてなるものであることが認められる。
 そして、本願商標は、商品の素材となる皮革に対する型押しと染色によって表示され、商品の全体に使用されるものであることは原告が自認するところであり、この本願商標の商品における現実の使用態様(甲第10号証の1ないし67、第28号証の1ないし13、第29号証及び第37号証)を参酌すると、本願商標をその指定商品について使用した場合、一般的にはこれに接する取引者、需要者に、商品の地模様と認識され得るものであると認められる。
 ところで、商品の地模様であっても、そこに特徴的な形態ないし特異性が見いだされれば、自他商品の識別機能を有する場合もあり得るものではあるが、乙第1ないし第37号証により認められる原告以外の者の商品の生地、素材の模様や図柄と対比してみても、本願商標は、商品の地模様として普通に使用されている形状及び色彩と明らかに異なった特殊性を有しているとはいい難く、地模様の形態を超えて、それ自体で自他商品識別機能を一般的に果たし得るような特徴的な形態を備えていることを肯定することは困難であるといわざるを得ない。
 以上によれば、「本願商標は、その指定商品に使用しても、単に、該商品の品質(型押し柄)を表示するにすぎず、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない」とした審決の認定判断部分に誤りがあるとはいえない。
 (2) 原告は、本願商標を使用した原告の商品は、エピ・ラインと通称されて、原告のエピ・ラインの商品のグループを表わす商標として長年使用されており、本願商標は、需要者・取引者においても、原告の商品中の一群の商品を表わす図形商標として広く認識されており、このことは、本願商標が出所表示機能を有することの証左である旨の主張をしている。
 しかしながら、本願商標が商品に使用された結果として出所表示機能を有するに至ったとしても、そのことは、次に検討する商標法3条2項規定の使用による識別機能の獲得の有無の問題であって、本願商標の形態自体が本来自他商品の識別機能を有することを直ちに根拠付けるものではなく、そのことを考慮に入れても、上記(1)に判示したとおり、本願商標それ自体が自他商品の識別機能を一般的に果たし得るような特徴的な形態を備えていることを認めるには足りないといわざるを得ない。
 また、原告は、特許庁における他の登録例と対比して、本願商標についても登録されるべきである旨の主張をしているが、例えば、原告が他の商品群に使用している商標であるとする「モノグラム・ライン」の商標は、「L」と「V」の文字のモノグラムを含む特徴的な図形によって構成される商標であるなど、いずれも本願商標とは構成を異にするものであって、原告の上記主張を採用することはできない。
 (3) その他原告は、本願商標の諸外国における登録状況や国際保護の必要性等に関する主張をするが、これらの事情をもってしても、上記(1)の判断を覆すことはできず、したがって、原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2について
 (1) 本件証拠(後記括弧内に掲記のもの。)によれば、次の各事実が認められる。
  ア 本願商標を含むエピ・ラインの標章の創作の経緯等(甲第8号証の1、第9号証の1、第35号証、弁論の全趣旨)
 本願商標は、前記のとおり、青色の横縞風の模様を正方形の枠内に描いてなるものであるが、その図形をほぼ同じくして色彩をそれぞれ異にする形態の標章が、本願商標を含めて、原告によって「エピ」、「エピ・マーク」と呼ばれ(以下「エピ・マーク」という。)、商品の素材となる皮革に対する型押しと染色によって商品の全体に表示されて、原告の一群の商品において使用されている。この皮革は「エピ・レザー」と呼ばれ、このシリーズは「エピ・ライン」ないし「エピ・レザー・ライン」と呼ばれ、「エピ」、「エピ・レザー」とも略称されている。この名称は、原告が麦の穂が風にたなびく様子をイメージした図柄をベースに図案化したために、フランス語で「麦の穂」を意味する「epi」の言葉をその標章のネーミングに使用したものである。これらのエピ・ラインの商品には、いずれも、原告の社名の頭文字である「L」と「V」の文字を組み合わせたモノグラムが同色で表示されている。
 原告は、このエピ・マークを、1926年(昭和元年)に、インドのバローダ王のために作製した「ティーケース」と呼ばれたピクニック・ケースにおいて初めて創作して使用し、その後、これが評判になったため、顧客からの特別な注文に基づいて原告が製造、販売した旅行鞄等の製品にエピ・マークを使用していた。
 そして、原告は、1986年(昭和61年)に、このエピ・マークを一般顧客向けに復活させ、耐水性、耐久性を高めたエピ・レザーを使用した旅行鞄、ショルダーバッグ及び財布等の小物(袋物)の発売を開始した。発売当初の1986年には、本願商標であるトレド・ブルー(スペインの古い町トレドを流れるタジ川にちなんでいるとされる。)の色彩の他に、ボルネオ・グリーン、クリール・ブラック、ケニアン・ブラウンと呼ばれる合計4色の製品が発売され、続いて、翌1987年に、カスティリアン・レッド、1990年にジパング・ゴールド、1993年にはタッシリ・イエローの色彩の製品が加わった。
  イ エピ・ラインの商品の売上げ及び宣伝等(甲第8号証の1、2、第9号証の2、3、第35号証、弁論の全趣旨)
 原告は、我が国をはじめとして世界各国において、かばん、バッグ等の皮革商品を販売しており、その社名である「ルイ・ヴィトン」の名称は著名なブランド名となっている。そして、エピ・レザーを使用したエピ・ラインの商品も世界各国で販売されており、日本の市場が原告にとって最重要市場の一つであることから、原告は、日本における発売当初の昭和62年(1987年)以降、日本国内で、エピ・ラインの商品について数千万円から一億円を超える広告宣伝費を費やして、随時広告を行っており、その日本国内での売上も高額となっている。
 すなわち、日本におけるエピ・ラインの商品(本願商標の指定商品であるかばん類、袋物、携帯用化粧道具入れを含む。)の売上高は、昭和62年(1987年)に約8億円であったものが年々増加して、平成8年(1996年)には、236億円に達している。また、日本におけるエピ・ラインの商品の売上高が原告の全商品の日本における売上高に占める割合は、昭和62年(1987年)の6・7パーセントから、平成7年(1995年)には40・6%に、平成8年(1996年)には38・8パーセントを占めるに至っている。このように、エピ・ラインの商品は、「L」と「V」の文字を組み合わせたモノグラムを商品の全面にデザイン化した原告の極めて著名な商品群である「モノグラム」と並ぶ代表的なルイ・ヴィトンの商品となっており、「いまやルイ・ヴィトンには二つの顔があるといわれています。代表的なモノグラム・ラインと、大胆な色使いのエピ・レザーと。」と紹介する雑誌もある(「SOPHIA」講談社平成6年2月1日発行、甲第10号証の24)ほど、そのブランド商品としての人気が定着している。なお、ルイ・ヴィトン ジャパン株式会社の社員が平成12年2月14日に作成した陳述書(甲第35号証)では、日本におけるのルイ・ヴィトン製品の売上げのうち、モノグラム・ラインが約5割を占め、エピ・ラインは、約2割程度で、年間160億以上の売上げがあり、原告のバッグ類の2番目に重要な製品ラインとなっているとしている。
 また、エピ・ラインの商品の需要者である女性の読者を対象とする雑誌である「Oggi」(小学館平成5年7月1日発行、甲第10号証の1、第37号証)や「SOPHIA」(講談社平成5年12月1日発行、甲第10号証の2)がエピ・マークが麦の穂をデザインしたものであることやエピ・ラインの歴史、商品のラインナップ等を詳細に紹介する記事を掲載するなど、平成10年10月の本件の審決時までの間に、主に女性向けの多くの雑誌において、原告のエピ・ラインの商品が多数回掲載されており(甲第10号証の3ないし67、第28の1ないし6)、最近においても同様の状況にある(甲第28号証の7ないし13、第29号証)。これらの雑誌の記事では、原告のエピ・ラインの商品として、かばん、各種バッグ、キンチャクショルダーや、財布、名刺入れ、アクセサリーケース、キー・ケース、携帯用化粧品入れ等の小物の皮革商品が紹介されており、また、その一部では、ベルトの商品(甲第10号証の1、3、29)やウエスト・バッグ(甲第10号証の3、27、35)も紹介されている。
  ウ 日本における需要者に対するアンケート調査の結果
 原告が平成10年に日本において実施したアンケート調査によると、エピ・ラインの商品のうち、バッグの写真を例として挙げた質問に対して、原告のエピ・ラインのシリーズを認識していると回答した女性の割合が74・9パーセントに上っており、モノグラム・ラインの97・0パーセントに次ぐ認知率を示している(甲第36号証36頁)。
 また、原告が株式会社社会調査研究所に依頼して、本件訴訟提起後の平成12年5月13日から同月15日にかけて、本願商標を単独で、あるいは、実際の商品に付されている「LV」のモノグラムの表示を削除して、本願商標のみを付したバッグを回答者に見せて、本願商標がいかなる者に属するか、あるいは本願商標を使用した商品のシリーズ名は何かを問うアンケート調査を、同社のホームページにアクセスして回答するという方法で行ったところ、本願商標を付したバッグの写真による質問に対して、回答者の62・8%が原告の商品であることを認識しており、さらに本願商標のみの写真による質問に対して、回答者の70%が原告のものであることを認識しているという調査結果が得られている(甲第38号証)。
  エ エピ・マークの識別力に関する外国の諸団体による証明書の存在
 デンマーク皮革業者組合が発行した1990年(平成2年)11月9日付けの証明書では、エピ・マークは原告の商品の特徴的なマークとして一般に知られているとしており、また、1995年(平成7年)9月11日付けの証明書でもそのことを確認した上で、以前に見られた類似の皮革商品は姿を消しているとしている(甲第2号証の1)。また、英国皮革協会の販売部長による法廷宣誓書によると、出所を伏せたエピ・レザーのサンプルについて、原告の商品であることを認識したとしている(甲第2号証の2)。
 (2) 上記(1)の事実を総合すると、本願商標を使用した本件の指定商品は、日本における昭和62年の一般顧客向けの発売以来、審決時の平成10年までの間に多額の売上げを達成し、また、原告による宣伝広告と女性向けの多くの雑誌による多数回にわたる紹介がされており、これらの結果、少なくとも本件の審決時までには、その購買層である女性の需要者の間において、本願商標をその指定商品に用いた場合に、本願商標のみの表示によって、原告の商品であることが広く認識されていたことが認められる。
 上記(1)のウの原告が本件訴訟提起後に実施したアンケートの調査結果は、この認定を端的に裏付けるものであるというべきである。また、上記(1)のエの外国の諸団体によるエピ・マークの識別力に関する証明書の内容は、前判示のとおり、世界各国においても原告によってエピ・マークを使用したエピ・ラインの商品が宣伝、販売されており、その結果、エピ・マークが当該国内の需要者や取引者の間において出所識別力を取得するに至っていることを証するものであり、このことは、我が国においても同様の状況にあることを推測させるといえよう。
 このように、本願商標は、指定商品に使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品であることが認識することができるものとなったことを肯定することができる。
 (3) 被告は、本願商標やエピ・マークと同様の標章(地模様)を使用した他の者の商品の存在として、乙第1号証ないし第32号証を提出しているが、原告も指摘するように、これらの中には、乙第1号証の229頁及び230頁に記載のもの、第3号証、第5号証の2枚目に記載のもの、第12号証、第14号証、第16号証、第21号証の87頁に記載のものなど、一見して本願商標とは類似していないものがあるし、本願商標と類似すると認められる標章についても、それらの標章が付された商品の販売期間(特に、本件の審決時点である平成10年10月における販売継続の有無)、販売場所、売上高、需要者のその出所に関する認識の状況等が明らかではなく、また、これらの標章が使用された商品が他の者の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、これらの証拠によっては、審決の時点において、本願商標と同一又は類似の標章が本願商標の指定商品の生地や素材の柄として広く使用されていた事実を認めるのには十分でないといわざるを得ないから、これらの証拠は、本願商標の出所識別力が生じていたという上記(2)の認定の妨げとはならないし、また、本願商標の指定商品に本願商標を用いた場合、それが原告の商品であることを表示するほど本願商標が周知となっていたという上記(2)の認定を左右するものではないというべきである。
 また、被告は、原告が本願商標の使用例として提出した証拠は、すべて本願商標と同じ柄が、バッグ等の素材の表面全体にわたっての型押しの柄として使用されているものであり、商標の使用とは認められず、それは原告以外の者の製造販売に係る商品の柄として多数使用されている自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない単なる地模様としての使用であり、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない旨の主張をしている。
 しかしながら、上記(1)のウのとおり、原告が本件訴訟提起後に実施したアンケートの結果によると、本願商標がその指定商品に使用された結果、現実には本願商標のみの表示によって、需要者が広く原告の商品であると認識し、識別することができるものとなっていることを肯定し得る調査結果が得られているのであり、このアンケートの結果についてはその信用性を強く疑わしめる事情は見いだし難く、本件において提出された証拠による限り、上記(2)の認定を覆すことは困難であるといわざるを得ない。
 (4) したがって、第18類の「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」を指定商品とする本願商標の登録について、商標法3条2項の適用を否定した審決には誤りがあるというべきである。

    
           本件商標
 指定商品: 第18類 「かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ」





「ガンバレ!受験生」商標事件(商標法第8条第2項、同第5項の解釈)

<同日出願の無効理由の解釈。
 いずれも平成12年1月24日に出願された本件商標と東洋水産商標とは、商標も類似し指定商品も抵触しているのであるから、法8条2項・4項・5項に基づき、特許庁長官の協議命令・当事者間の協議・特許庁長官の行うくじの手続を経なければならなかったが、審査官がこれらの手続を経ずに商標登録をさせるに至ったときは、法46条1項により商標登録を無効とすべきものとはいえない。>

事件番号  平成18年(行ケ)第10458号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成19年04月26日
裁判所名  知的財産高等裁判所 
判決データ:  TM-H18-Gke-10458.pdf

(2) 商標法は、その8条1項において「同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標について異なった日に2以上の商標登録出願があったときは、最先の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる」と定めて、先願主義の立場をとることを明らかにしている。もっとも、この先願主義の立場は、日を単位として適用されるのであって、同一日に複数の出願が競合した場合については、各出願相互間に優劣を設けずにこれを同一順位と扱い、その後になされる当事者間の協議(法8条2項)又は特許庁長官が行うくじ(法8条5項)により、複数出願相互間の優劣が決せられる仕組みとなっている。一方、法46条は、商標登録の無効審判における無効理由について定めていて、何らかの事由により商標法の規定に反する商標登録がなされた場合にこれを無効にすることにより、商標制度の適法性を担保しようとしたものである。本件においては、前記のように、被告(日清食品株式会社)からなされた本件商標登録出願と東洋水産株式会社からなされた東洋水産商標登録出願とは、商標が類似し指定商品も抵触するのであるから、上記各出願を受けた特許庁審査官としては、法8条2項・4項・5項に基づく協議・協議命令・くじの手続を執るべきであったのにこれを看過し、両出願につき商標登録させてしまったものであるが、これらの手続違背が当然に法46条1項の商標登録の無効審判事由に該当するかどうかが、本件訴訟の中心的争点である。
 思うに、法46条1項の無効審判事由該当性の有無の解釈に当たっては、違反した手続の公益性の強弱の程度、及び無効事由に該当すると解した場合の法制度全体への影響等を総合的に判断してこれを行うべきものである。法46条1項の規定のうち本件に関係があるのは、その1号の「その商標登録が…第8条第1項、第2項若しくは第5項…の規定に違反してされたとき」との部分であるが、法8条は、前記のように、商標法における先願主義の立場を明らかにし、先願と抵触する重複登録はこれを避けようとした規定であると解される。そして、法8条の定めるこの先願主義ないし重複登録禁止の立場は、商標が商品の出所の同一性を明らかにするという意味での公益性に寄与するためのものであることは明らかであるが、その公益性の程度は、法47条が商標権の設定登録の日から5年を経過したときは無効審判請求をすることができないことを定めていることからして、重複した商標登録の併存を法が絶対に許容しない程の強い公益性を有するものと解することはできない(設定登録後5年を経過すれば、重複登録は適法に並存できる。)のみならず、商標法は、類似の規定を持つ特許法(39条)及び意匠法(9条)においてはいわゆる後願排除効がある(同一内容の後願は、先願が拒絶されても、受理されることはないという効力。特許法29条の2、意匠法3条の2)のと異なり、後願排除効がない(法8条3項)から、仮に平成12年1月24日に出願がなされた本件商標及び東洋水産商標につき法8条2項若しくは5項違反により無効審判をすべきものと解することになると、それよりも後願の者(例えば原告)の商標登録出願を許容することになり、その後願者にいわゆる漁夫の利を付与することになって、法8条1項の先願主義の立場に反する結果になる。
 そうすると、法8条2項、同5項に違反し商標登録が無効となる場合(法46条1項1号)とは、本件審決(8頁10行〜14行)も述べるように、先願主義の趣旨を没却しないような場合、すなわち出願人の協議により定めたにも拘わらず定めた一の出願人以外のものが登録になった場合、くじの実施により定めた一の出願人でない出願人について登録がなされたような場合をいうものと解するのが相当である。
 したがって、これと同旨の審決が法8条2項、同5項の解釈を誤ったということはできず、審決に違法はない。





「AJ」商標事件

事件番号  平成19年(行ケ)第10243号
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日  平成20年03月27日
裁判所名  知的財産高等裁判所
判決データ:  TM-H19-Gke-10243.pdf  TM-H19-Gke-10243-1.pdf

 しかし、審決書には、「AJ」が「ARMANI JEANS」の欧文字と共に使用されている点を形式的に挙げて、本願商標の使用に当たらないとしているのみで、「AJ」が使用されている商品等に関する証拠の評価、具体的な使用状況等に関する事実認定、法律を事実に適用した判断過程は何ら記載されておらず、本件の審判手続において、法3条2項に着目した審理を実施した形跡もない。
(エ) したがって、審決には、法3条2項に該当するか否かという重要な争点についての実質的な理由が付されていないから、その余の点を判断するまでもなく、理由不備(商標法56条、特許法157条2項)の違法があるというべきである。
2 法3条1項5号の該当性についての補足的判断
上記のとおり、審決には理由不備の違法がある。したがって、再開される審判手続において、本願商標の法3条1項5号及び2項の該当性について審理を行うことになるが、審理促進の観点から、原告主張に係る取消事由1についての判断を、あらかじめ示すこととする。
(1) 本願商標は、黒色横長方形内に「AJ」の欧文字を白抜きに表記したものであり、このうち白抜き部分である「AJ」は、欧文字の「A」と「J」の文字の組合せたものである。各文字は、「モダンローマン」字体で記載され、デザイン性は優れているものの、格別特徴のある字体ではなく、また、特別の図形的な特徴を連想するものとはいえない(乙5の1、2)。黒色長方形内に白抜きで文字を配置する構成についても、商品の品番等の表示において長方形内に白抜き文字とする事例があることに照らすならば、さほど特徴のある構成ということはできない(乙2の1、乙7の1ないし7、乙8)。そうすると、本願商標は、商標法3条1項5号の「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」に該当するとした審決の認定に誤りはない。

         





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